悩んで読むか、読んで悩むか

別の人生を想像しつつ、今ある愛を磨く 三浦しをんさん

2017年04月16日

みうら・しおん 76年生まれ。作家。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞。

■相談 見合いで平穏な人生、心を焦がしたい
 恋愛に恵まれず、38歳で見合い結婚をしました。夫に不満はなく、子ども2人と平穏無事に暮らしています。それでもこのまま人生が終わるかと思うと、やるせない。瀬戸内寂聴さんの「100冊の本を読むより、1回の恋愛」という言葉を手帳に貼る自分に苦笑いしています。私も心を焦がしてみたいです。
 (長野県、パート女性・51歳)

■今週は三浦しをんさんが回答します
 奥さん!(唐突な呼びかけ) 目を覚ましてください! 恋なんざ幻想と思いこみとなりきり力で成立するものですよ。一瞬の病ですよ。そんなものより大切な、「愛」をあなたは手に入れてるじゃありませんか。愛とは持続です。相手を思いやり、大切にしつづける覚悟です。ご自分が日々築いている愛の貴さに、もっと自信をお持ちになっていいと思います。
 どうしても心を焦がしたいなら、夫にロマンス小説を読むよううながし、たまにヒーローを演じてもらってください。ただ、ロマンス小説によって夫が女心に通じるようになり、よそでヒーローになってしまう危険性も否めませんね……(私はこれまで無数冊、恋愛物語を読んできましたが、その知見を現実の恋愛に活〈い〉かせたことはないので、たぶん大丈夫だと思いますが)。
 相談者におすすめしたいのは、岸本佐知子氏編訳の『楽しい夜』(講談社)です。同じ編訳者の『変愛小説集』(同)という、風変わりな愛の物語を集めたシリーズもありますが、ここはあえて恋愛縛りではない『楽しい夜』を。
 さまざまな海外作家の小説が収録された短編集です。うつくしくも不穏な恋愛小説(「亡骸〈なきがら〉スモーカー」)もあります。私が相談者に特にお読みいただきたいのは、ミランダ・ジュライの「ロイ・スパイヴィ」という一編です。飛行機でたまたま隣りあったハリウッド・スターと……というお話です。主人公の女性はどうするのが正解だったのか、べつの選択をしていたら彼女の人生はどうなったのか、私はねちこく想像せずにはいられません。
 本書を読んで感じるのは、「さびしさ」です。そのさびしさは、だれの胸のなかにもきっとある。相談者はもちろん、夫にも、二人のお子さんにも。そこに思いを馳(は)せ、それぞれにとってありえたかもしれない人生を想像しながらも、いまある愛を日々磨きつづける生きかたのほうが、一瞬の恋よりよほど刺激的でエロティックではないでしょうか。
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 次回は精神科医の斎藤環さんが答えます。
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 ■悩み募集
住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。

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