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さもえど太郎「Artiste」 パリの料理人の滋味あるドラマ

Artiste(1) [作]さもえど太郎

 素人料理やニッチな題材、食べる側にスポットを当てた作品が乱立する食マンガ界にあって、古典的なプロの料理人の世界を描こうとする本作は逆に新鮮。しかも舞台はパリという王道の選択だ。
 主人公は、有名シェフの店で働く気弱な青年・ジルベール。常人離れした味覚と嗅覚(きゅうかく)の持ち主だが、とある件でシェフの逆鱗(げきりん)に触れ、雑用係に回されてしまう。本当は料理が大好きなのに、気持ちを押し殺して皿を洗う日々……。
 しかし、その才能を知る同僚らに背中を押され、青年はおずおずと新たな一歩を踏み出す。なかでも一見ちゃらんぽらんだが洞察力は鋭いマルコの存在が大きい。ジルベールが月ならマルコは太陽のよう。ところが、実はマルコもジルベールをまぶしく見ていた。そんな2人に芽生えた友情が読む側にもまぶしい。
 ほかにもシェフの息子やジルベールをスカウトする商売上手のシェフ、芸術家に安く部屋を貸すマダムなど、愛すべきキャラ多数。コマ割り、構図、回想シーンの構成など粗削りな部分もあるが、素朴なタッチで描かれる人間ドラマは、ジビエ料理のように噛(か)みごたえと滋味がある。次巻以降、主人公とともに作者も成長していくに違いない。=朝日新聞2017年5月14日掲載