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「河童のユウタの冒険」 冒険の世界に入り込んで

「河童のユウタの冒険」

 読み終わった後、たっぷりと満足感を味わうことができる長編の冒険ファンタジー。はじめは、上下巻でおよそ800ページのボリュームに圧倒されるかもしれないが、読み始めると語り口がわかりやすく、すっと物語の世界に入りこむことができる。
 ある日、湖に棲(す)む河童(かっぱ)のユウタは、那須野の山からあらわれたキツネに、九尾(きゅうび)のキツネの孫娘のアカネと一緒に水源をさかのぼる旅へ出なければならないと告げられた。ユウタは、翼をいためていた仲間の白鳥のカナタのことを気にしながらも、目的もわからないまま旅立つことに。途中で山を守る天狗(てんぐ)のハヤテも加わり、ユウタたちの冒険の旅はつづく。はたして無事にめざす水源にたどりつくことはできるのか。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫)
 ★斎藤惇夫作、金井田英津子画、福音館書店、上下いずれも税抜き2500円、小学校高学年から。表紙は上巻。

「明日のひこうき雲」

 遊はうつを抱える母親と弟と3人暮らし。父親は単身赴任中。彼女を取り巻く環境は14歳には過酷だった。そんな中、キンちゃんという男の子を好きになり、恋と友情が生きる原動力となっていく。10代の子らしい感情の芽生えが彼女の見えるものを一変させていく様が本当にみずみずしく、生きる力の輝きがまぶしい一冊だ。(丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵)
 ★八束澄子著、ポプラ社、税抜き1400円、中学生以上

「ひよこさん」

 よちよち出かけるひよこさん。「もうすぐくらくなるよ」。心配そうに語りかける文に、背景で見守る植物と、読み手の気持ちが重なります。ひとりぼっちでも無邪気に眠れるのは、きっとこの世界を信頼しているから。色に時間、質感に存在感の宿る絵で、夫が生前に書き残した文を丹精こめて絵本化。安心に満たされます。(絵本評論家・作家 広松由希子)
 ★征矢清作、林明子絵、福音館書店、税抜き800円、0歳から=朝日新聞2017年5月27日掲載