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つゆきゆるこ「ストレンジ」 6組の男同士の友情と歓喜と成熟

ストレンジ [作]つゆきゆるこ

 教師に疎まれクラスメイトには怖がられる問題児と友達のいない図書委員、動物好きの教師とコワモテ男子、アニメオタクの伯父とクールな甥(おい)など、6組の男同士の友愛を描いた短編集。なかでも鮮烈なのは、やはり表題作だ。
 ナイーブで夢や目標もない高校生が、女装バーに勤めるゲイの男と友達になる。その出会いのシーンがまず素晴らしい。絵ヅラ的には不細工なのに人間性の発露としての言葉の交差が美しく胸に響く。年上の風変わりな友達の生き方に刺激され、将来への一歩を踏み出す姿も清々(すがすが)しい。
 出張先のハワイで娘からの電話で婚約を知らされ落ち込むお父さんが、ガイドの青年に半ばむりやり南国の光と風を味わわされることで立ち直る第3話もハッピーだ。
 英語の「strange」には「奇妙な」「風変わりな」のほかに「不慣れな」「初めての」といった意味もある。これは表題作のみならず全編に通じる主題だろう。異質な相手と交流することで初めての経験と感情を得る。不慣れゆえの戸惑いや失敗もあるが、未知の世界の扉が開く。そんな心の動きを縦糸に、偏見と多様性、対話と共感などの現代的課題を横糸とした友情と歓喜と成熟の物語にシビれる。=朝日新聞2017年6月11日掲載