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「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由 [著]汐街コナ [監修]ゆうきゆう

2017年06月25日

■学習性無力感の体験と対応策

 毎日のように終電まで働いていた著者は、駅のホームで電車を待っていた時にふと「今一歩踏み出せば明日は会社に行かなくていい」という衝動にかられる。その経験談を短いマンガに描き、ツイッターに投稿。多くの人の共感を呼んだ。本書はこの投稿をもとにして大幅に加筆し、精神科医ゆうきゆう氏の解説を加えたものである。
 一昨年、大手広告会社に勤務する20代の女性社員が自殺し、後に過労死として労災認定された事件があった。東大卒の若い女性の悲劇に人々は驚き、「なぜそうなる前に辞めなかったんだろう」と思った人も少なくなかったはずだ。
 本書では、これを学習性無力感という心理学用語で説明している。人や動物がストレスを受け続けると、その状況から逃げ出そうとする努力すら行わなくなってしまうという現象のことだ。
 たとえばサーカスのゾウは足首のひもで地面の杭につながれているが、逃げ出そうと思えば力ずくで逃げ出せるはず。しかし小さいころから杭につながれているゾウは「抵抗してもムダ」という無力感が注入され、逃げる発想そのものがなくなってしまう。
 このような背景の論理が説明されたうえで、著者の生々しい体験談が圧倒的な当事者性とともに描かれている。本書がベストセラーとして秀逸なのは、このような著者の立ち位置だけでなく、非常に実用的なことがある。たとえば、どのような段階に立ち入ったら心療内科に行けばいいのかという質問に対して「答えは簡単です。『困ったとき』です」と明快に答えるのだ。
 加えて、漫画を中心に描いた読みやすさ。わかりやすく引き込まれるタイトル。冒頭の漫画からグッとくる読者の「つかみ」。ベストセラーになるべくしてなったと言える本であり、おそらく誰もが「もっと多くの人に届いてほしい」と感じるであろう今年屈指の好著だ。
 佐々木俊尚(ジャーナリスト)
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 あさ出版・1296円=14刷12万2千部 17年4月刊行。担当編集者によると、主な購読層は男女を問わず20〜40代の会社員。「この本は命の恩人」といった反響があるという。

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