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バッタを倒しにアフリカへ [著]前野ウルド浩太郎

2017年07月02日

■人生賭けた若手研究者の挑戦

 子供の頃ファーブル昆虫記を読んで昆虫学者に憧れた読者も多かろう。昨今の若手研究者の環境悪化は夢を容易に打ち砕く。だが、著者は違う。バッタの研究という一見何に役立つかわからない研究は、実は、アフリカを定期的に襲うバッタの大量発生による作物への壊滅的な被害を止める、即(すなわ)ち、人類を救う研究であることに気づき、アフリカのモーリタニアでのフィールドワーク研究に旅立つ。
 とはいえ、人生をかけたギャンブルだ。わずかな予算で2年間の滞在期間中に論文を書けなければ、失業者まっしぐらである。意外なことに現代の昆虫学者の多くは実験室での観察が中心で、自然界、現場の昆虫観察に重きを置いていない。その理由を、読者はすぐに理解することになる。アフリカの大自然の中で虫を観察することの難しさ、不確実性、トラブルの多さが、これでもかこれでもかと、著者を襲う。アフリカの自然環境の厳しさ、動物の危険性。詐欺まがいのぼったくり、賄賂は当たり前で身近の人間でも油断できない。さらには、異常気象でバッタがどこにも見つからない危機。しかし、著者には一片の悲壮感もない。バッタがいなければ、他の虫で論文を書いてみる。日本の文部科学省からの補助金が切れてしまっても、なんとかアフリカに残って研究を続ける。昆虫学者のキャリアを続けるために、著者がとったやや飛び道具的な方法は数万人の日本人を巻き込むことになり、ついには、とこの先は本書を読んで確認していただきたい。
 馴染(なじ)み薄い国でのマイナーテーマにもかかわらず、知的好奇心に引っ張られてページをめくっていく読書体験がある。それは、著者自身が、圧倒的な知的好奇心の塊で見るもの聞くものの面白さを書き連ねているからだ。そして、この知的好奇心こそ、優れた研究者の最も重要な資質にして、新発見の源であり、研究と社会との大連携すら起こしてしまう。発見の多い一冊。
 瀧本哲史(京都大学客員准教授)
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 光文社新書・994円=6刷5万部 17年5月刊行。担当編集者によると、表紙は著者がハロウィーンのときに撮影したもの。思わず「ジャケ買い」する読者が続出しているという。

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