速水健朗の出版時評

上半期ベストセラー AIブームと文明批判

2017年07月02日

通勤客を狙い発売日早朝から売り出された『騎士団長殺し』=2月24日午前8時、東京都中央区

 上半期のベストセラーを振り返る。トーハン調べランキング1位は、佐藤愛子の『九十歳。何がめでたい』。一方、e―honランキングでは、村上春樹の『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』が1位を獲得した。
 それ以外の上半期を振り返るとお笑い芸人であるにしのあきひろ(西野亮廣)の絵本『えんとつ町のプペル』、大ベストセラー『火花』の又吉直樹の小説2作目となる『劇場』がヒット。意外性のあるところでは「お堅い」と評判の中公新書『応仁の乱』。明確に勝敗を分けるようなストーリーを持たないこの中世の戦争を詳細に掘り返す姿勢が読者の知的欲求に火をつけた。「知」にユーモアを持ち込んだ『うんこ漢字ドリル』が260万部超えで話題だが柳の下のどじょうが大量発生しないことを願う。
 小説では「直木」「本屋」の両賞を獲得した恩田陸『蜜蜂と遠雷』が、批評筋の評価と読者人気の両方を一致させてのベストセラーに。
 さて、AIの時代。ベストセラーもAIで判別可能という『ベストセラーコード』もこの上半期に刊行された。小説の売れる売れないはAIで判定可能だという。基準は、プロットの展開パターン、トピックの数、動詞の使い方などで、その正解率は8割。
 佐藤愛子のベストセラーエッセーは、現代の行き過ぎた文明への批判を書き連ねた内容。「スマホ」が行き渡ると「人間はみなバカになるわ」と堂々と宣言。「急速な『文明の進歩』」が年寄りに敬意を払わない社会を生んだという主張に共感を集めている。
 また、『騎士団長殺し』からも文明批判の趣が伝わる。舞台は現代で主人公は30代。だが彼の車には、カーナビやETCはない。そして「人々が電話機を使って写真を撮るという行為」に「馴(な)れることができ」ない。スマホなんて無理だろう。
 上半期ベストセラーでは、技術文明批判側が大勝利。AIが書く小説・エッセーがヒットする時代は? 下半期の巻き返しに期待。

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