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石原まこちん「マチビト」 ニート息子の、父の入院付き添い記

マチビト [作]石原まこちん

 近頃は友達親子も多いらしいが、思春期から親と没交渉のまま大人になってしまった人も少なくないはず。特に父と息子の関係は難しい——というのは自分の体験的所感だが、本作の主人公も同類だ。
 突然倒れて意識不明となった父(72)が入院する病院の廊下の長椅子に日がな一日座っている息子(38)。ニート同然でヒマゆえの付き添い役だが、父親とは〈一生分かり合える気がしねーわ〉と言い放つ。出来のいい勤め人の弟に劣等感を抱き、シングルマザーで気の強い妹には頭が上がらない。そんな彼が病院という生と死を身近に感じる場所で過ごした十数日を描く。
 普通ならシリアスな状況のはずが、作者の手にかかると脱力のマヌケ時空に。いい年して携帯の充電器を買う金もなく、見舞いに来た親戚との会話も覚束(おぼつか)ない主人公のダメっぷりには苦笑。ここぞという場面でも意味不明の行動に出る。しかし、それが逆にリアルで人間臭く、父親への複雑な思いが伝わってくる。
 家族や親戚との会話から父の意外な一面を知り、見ず知らずの患者の死や元同級生の看護師とも遭遇。遅まきながら大人の階段を上り始める男の姿は、どう見てもカッコ悪いけど他人事(ひとごと)と思えない。=朝日新聞2017年7月9日掲載