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宝くじで1億円当たった人の末路 [著]鈴木信行

2017年07月23日

■同調圧力なんて関係ない

 現在放送されている、芸能人の同級生の現在を追うTV番組「あいつ今何してる?」(テレビ朝日系)と、終電を逃した人々に声をかけて自宅を訪問する番組「家、ついて行ってイイですか?」(テレビ東京系)。この二つの番組タイトルは、人が共通して知りたがるものを見事に伝える。私たちは、他人に「で、どうなの?」との問いを投げ続け、個人的な好き嫌いを存分に加味しながら、他人の振る舞いをジャッジして生きている。
 「人生で一つの『選択』をした後、どんな『末路』が待ち受けているか」、二十三の末路を追った本書の結論はシンプル。「同調圧力なんて関係ない。今日から自分がやりたいことをやり、やりたくないことはやめましょう」。以上だ。清々(すがすが)しい。
 「日経ビジネス」副編集長が、宝くじで1億円当たった人、事故物件を借りちゃった人、自分を探し続けた人、留学に逃げた人、電車で「中ほど」まで進まない人などの末路について、専門家にインタビューを重ねる。分析に共通するのは、日本社会に染み渡る「群れる」意識。それは今年、「忖度(そんたく)」なる流行語が教えてくれた通り。
 社会はいつだって流動的。だから人は、他人との比較を繰り返して、増幅する不安を減らそうとする。テーマごとに一人の専門家に聞いているだけなので、その見解は偏る。その分析のひとつひとつに異論が出るだろう。でも、すぐに答えを欲する現代に求められるのって、これはあくまでも一人の意見、と受け流す姿勢でもある。
 本書について、ネット書店のレビューを覗(のぞ)くと「一冊全て宝くじが当たった人の話かと思ったら、最初の数ページだけでがっかり」との低評価が複数書き込まれている。少しでも目次や内容紹介を読めば分かること。なぜこんなにも即物的なのか。この手のレビューが、逆説的に本書の存在意義を知らせる。知らない誰かの選択をじっくり知り、末路を受け止める。それだけで視野は存分に広がるのだ。
 (武田砂鉄=ライター)
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 日経BP社・1512円=9刷9万部 17年3月刊行。担当編集者は「SNSを通じて、自分の選択は正しいのか、という不安が加速する時代。そんな人の心を肯定できれば」と話す。

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