作家LIVE

奇怪・難解、あっと驚いてこそ

2017年07月30日

あやつじ・ゆきと 1960年、京都府生まれ。京都大学大学院在学中に『十角館の殺人』でデビュー。92年に『時計館の殺人』で日本推理作家協会賞。館シリーズと呼ばれるミステリー長編で知られる一方、『殺人鬼』『眼球綺譚(がんきゅうきたん)』などホラー小説にも取り組む。他に『Another』『深泥丘奇談(みどろがおかきだん)』など。

 作家の綾辻行人さんを迎えた第22回「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が7月中旬、大阪市北区の中之島フェスティバルタワーであった。デビュー作『十角館の殺人』で、謎解きを重視する「新本格」ミステリーブームの先駆けとなって30年。単行本未収録の作品を集めた新刊『人間じゃない』(講談社)の執筆経緯や、これまでの作家生活などについて語った。

■名探偵が謎解く「新本格」30年
 「新本格」ミステリーとは何か。どくしょ会は、綾辻さん本人による解説から始まった。
 「主に殺人事件にかかわる難解な謎を、名探偵が論理的な推理で解明する。その面白さを描いたものが本格ミステリーです」
 綾辻さんも子どもの頃から大好きで、「小学6年の時には、江戸川乱歩のような作家になりたいと思った形跡がある」と振り返り、以来習作を重ねてきたという。
 ところが、当時本格ミステリーは古くさく、刑事が靴底をすり減らして聞き込みをするような、リアルな事件を描くほうが高級と見なされる風潮があった。
 「それでは寂しい。名探偵がいて、あり得ないような事件が起き、あっと驚くどんでん返しがある話を書きたかった」といい、1987年にデビュー作『十角館の殺人』を世に送り出した。
 表舞台から姿を消しつつあった本格ミステリーを、新たに書いたので「新本格」。孤島の奇怪な館で起きる連続殺人の謎解きは、若い世代を中心に受け入れられ、今年ついに累計100万部を突破したという。「30年、ずっと同じペースで売れてここまで来たのはかなり珍しいこと。新本格の最初ということで、いろんなところで名前をあげてもらっているおかげ」と語った。
 新刊『人間じゃない』は、館シリーズをはじめとする過去の作品とつながりがある中短5編を集めた内容。謎解きだけでなく、怪奇・幻想風味が相半ばした作品集で、作家生活30年の変遷を楽しめる構成になっている。
 「探偵小説や本格ミステリーはもちろん大好きだが、それよりも怖い話が好き」という綾辻さん。ミステリーの短編は「名探偵のキャラが確立できていないからか、何となく書けない」というが、怪奇・幻想系の短編については「形を整えずに、まず怖いものをということなら短くても書けるかもしれない。そういう手探りを、いろいろやってきた感じがする」と振り返った。
 また、携帯電話の普及など、科学技術の発展が自身の作品に与える影響についても語った。
 「携帯やインターネットが邪魔なら、それがない世界を書けばいい。場合によっては取り上げてしまえばいい」と話し、やりづらさは感じていないという。ただ、「最近困るのは、DNA鑑定。『実は違う死体でした』みたいなことが、昔のようにはできなくなった」と話す一方でこうも。「それでも、どうしてもやりたければ鑑定のない時代を書けばいい。そういうところで小説は自由」
 会場からは「作品のトリックをどうやって思いつくのか」との質問が。「ひねり出すという感じではなく、最初のアイデアは会話の中や食事中など、何となく『あっ』と思いつく」といい、核心の部分はすぐに書き留めるが、「後で読み直すと、わからないこともよくある」と笑わせた。
 2012年の『奇面館の殺人』で、館シリーズは9作目。「次作で完結ですか」との質問も寄せられた。綾辻さんは「10作目で終わるつもり」と答えたうえで、すでに新刊のアイデアはいくつかあり、どれにするか決めあぐねている状況を明かした。完成の時期については「今が56歳で、年末で57歳だから、還暦ぐらいには」と期待を持たせていた。
 (聞き手・野波健祐、文・渡義人)

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