悩んで読むか、読んで悩むか

身勝手は命取り、巨大帆船に発見を 山本一力さん

2017年08月06日

48年生まれ。作家。『あかね空』で直木賞。『ジョン・マン』『紅けむり』など。

相談 サボる同僚にイライラ 心を保つには

 製造業の会社に勤めています。それぞれの部署で仕事の流れが違うので、暇な時間、忙しい時間が生じるのは仕方がないのですが、自分が暇だと、こちらが忙しいのに話しかけてきたり、何度もトイレに行ったりする人がいます。私は「だったら自分もサボってやる!」とはなりたくありません。心を保つために、何かいい本があったら教えてください。(愛知県、会社員男性・54歳)

今週は山本一力さんが回答します

 都立工業高校卒業後、輸出用トランシーバーのメーカーに就職した。製造ラインのベルト稼働中は、勝手な離席は厳禁。それが苦手で、わずか4カ月でわたしは退職した。
 貴兄が従事される製造業も相談内容から察するに、身勝手な離席などは周囲へは迷惑行為のようだ。
 相手の振る舞いに影響されず、自己の平静を保つのに役立つ図書。ご要望にかなう、格好の一冊がある。
 『輪切り図鑑 大帆船』(スティーヴン・ビースティー画、リチャード・プラット文)がそれだ。
 大型の図鑑で、どのページも精緻(せいち)描写のカラー絵と、百科事典もかくやの説明文で構成されている。
 2009年の夏。米国コネティカット州の「ミスティック・シーポート」を見学。ミュージアムショップで、本書英語版と出合った。
 図鑑で描かれているのはイギリス海軍の帆船軍艦である。書名通り、巨大な帆船を輪切りにし、内部構造を精緻な絵で見せてくれる。
 本書推薦最大の理由は、乗組員(士官および水夫)の動きが、絵と説明文から理解できることだ。
 自分ひとりが気を抜いても船は動くだろう……こんな勝手は許されないことを、本書は教えてくれる。
 帆船にまったく無知だったわたしが、捕鯨船航海を書き進めていられるのも、本書の助けあればこそだ。
 あるBS番組で、女優の梶芽衣子さんと対談したとき。
 「どんな小さな役でも、そのひとりが気を抜いた振る舞いをすれば、芝居すべてが壊れます」
 背中だけしか映っていないときでも、そんなときこそ、身体全身で演技をしていると、梶さんは話された。
 相手が迷惑行為に及ぼうとも、仕事に誇りと責任感を抱き、つまりいまの貴兄の仕事ぶりで臨めばいい。
 水夫のひとりが勝手な行動に出て船が座礁しても、責めを負うのは貴兄ではなく船長であろう。
 本書は絵も説明文も精細の極みだ。幾度読み返そうとも、新たな発見がある。相手の身勝手には取り合わず、描かれた絵から今日も新発見を。
    ◇
 次回は書評家の吉田伸子さんが答えます。
    ◇
 ■悩み募集
住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。山本さんと吉田さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、荻上チキ(評論家)、斎藤環(精神科医)、壇蜜(タレント)、穂村弘(歌人)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)。

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