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コナリミサト「凪のお暇」書評 断捨離しきれないもの、軽妙に

凪のお暇(1) [作]コナリミサト

 ストレスの多い職場。うまく立ち回れない自分。すっぱりと辞めてしまったら、どんなに気持ちがいいだろう。
 窒息しそうな苦しい人間関係に音を上げ、ついに会社を辞めたアラサー女子が、自分の生き方を見直して、貧乏な一人暮らしに挑む日々を描くコメディー作品だ。
 窮屈な毎日から解放され、断捨離で物もなくなり、身も心も軽くなった主人公。その爽快感が小気味よいテンポで描かれる。一方で、収入が途絶えてしまった不安や、追い打ちをかける年金や健康保険や住民税の支払い、じつは断捨離しきれていなかった人間関係のしがらみなど、多くの問題がじわじわのしかかる。
 一見、ありがちなドラマ展開のようでいて、なかなか一筋縄ではいかないキャラクターたちが人間くさく活躍し、ぐいぐい読ませる。恋愛ドラマもからめた軽妙なコメディーの笑いの中に、人の弱さが鋭くとらえられていて、著者の力量を感じさせる。
 ハローワークに通いながら味わう自由の日々は、不安と背中合わせだからこそ、かえって強い実感があるのかもしれない。そんな明るさと暗さのねじれの中で、迷いながらもしっかり前向きに進む主人公の姿が印象的だ。=朝日新聞2017年8月6日掲載