悩んで読むか、読んで悩むか

違う価値観、言語化して理解してみて 荻上チキさん

2017年08月20日

81年生まれ。言論サイト「シノドス」編集長。TBSラジオ「Session—22」パーソナリティー。

■相談 人のルール違反に寛容になりたい

 他人のちょっとしたルール違反やマナー違反が気になり、心の中で指摘してしまいます。誰しも完璧ではないので、お互い様だと分かっているのに柔軟性が無く、何かとしゃくし定規に考えてしまいがちです。正論を振りかざすこと無く、人の言動を受け入れるにはどうしたらいいでしょうか。
 (神奈川県、会社員女性、24歳)

■今週は荻上チキさんが回答します

 たとえ同じ国に生まれようと、同じ地域に暮らす同世代であろうと、人によって価値観は大きく異なります。自分にとっての正論も、他の人には通用しないこともしばしば。人にはそれぞれの優先順位や合理性があり、自分が尊重する価値を誰もが共有しているわけではありません。生き方に正解はないし、いま信じられている規範も絶対不変ではありません。文化によって人の生き方が大きく異なる。そのことを前提に、自分たちとは異なる暮らし方を調べようとする学問は多くあります。社会学もそのひとつ。フィールドワークといって、現地に足を運び、対象とする集団がもっている価値や規範、行動原理をあぶりだそうとする。宗教団体だったり、民族だったり、趣味の同好会だったり、調査対象は様々です。
 『ヤバい社会学』(スディール・ヴェンカテッシュ著)という本の調査対象は、特にユニークです。アメリカの若い社会学者であった著者は、貧困調査をするためにスラム街に向かいます。しかし、話しかけたギャングたちに、誰かの回し者だと誤解され軟禁されてしまいます。なんとか解放された著者ですが、その軟禁体験をきっかけにギャングたちに興味を持ちます。そして、彼らと「つるむ」ことで、彼らの生活環境や、彼らの持つ独特のルールやマナー——不穏な言葉を使えば「掟(おきて)」——がどういう理由で作られてきたものかを調べていきます。信頼を構築していった結果、そのギャング団のリーダーを、一日だけ任されることになるシーンなどは圧巻です。
 著者が体験したのは、価値の異なる隣人と接し、それを理論的な言葉に変えて理解していくこと。異なる価値の人をとにかく「許容」するのはとても難しい。ならば、理屈っぽく頭で「理解」していくのもひとつの手でしょう。言語化できれば、感じるストレスから距離を取ることもできます。読書の旅を重ねることで、自分の中にある「正論」もたくさんある価値観のひとつなのだと実感できれば、いずれ色々なものを受け入れられるようになるかもしれませんね。
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 次回(9月3日)はタレントの壇蜜さんが答えます。
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 ■悩み募集
 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。荻上さんと壇蜜さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、斎藤環(精神科医)、穂村弘(歌人)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、山本一力(作家)、吉田伸子(書評家)。

ヤバい社会学

著者:スディール・ヴェンカテッシュ、望月 衛
出版社:東洋経済新報社

表紙画像

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