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宮尾行巳「五佰年BOX」 箱のフタをあけると中世の人々が

五佰年BOX(1) [作]宮尾行巳

 織田信長似の高校生やフレンチのシェフが戦国時代へ、脳外科医が幕末へ……など、タイムスリップ頻発の昨今。本作も同系統ではあるが、ひと味違う趣向を凝らす。
 主人公の青年が蔵から怪しい木箱を発見。フタを開けると中にはミニチュアの家並みと道行く人々が。しかも人々は生きて動いている。服装からして中世の日本か。箱を移動させると中の風景も移動する。その箱庭空間は、どうやら500年ほど前の同じ場所と連動しているらしい。
 この設定がまず斬新でグッとくる。青年が観察に夢中になるのもむべなるかな。ところが、箱の中で野武士に襲われる少女を助けたら、ずっと好きだった幼なじみの存在がこの世から消えてしまった。過去に干渉すると現在に影響が出るのはこの手の物語の定石だが、元に戻そうとするたびに少しずつズレていく予測不能の展開がまたそそる。
 箱の中と外、二つの視点で物語は進む。潔癖症でヘタレな主人公が、箱の中から見れば神のような存在になる。大きな構えの物語なのに、描かれるのは小さな個人の事情。そんな対照の妙に、箱そのものの謎、登場人物たちの行く末など、見どころ満載。新鋭の欲張りな初単行本だ。=朝日新聞2017年9月3日掲載