ベストセラーズインタビュー

『ボクたちはみんな大人になれなかった』 燃え殻さん

2017年09月19日

燃え殻さん

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 出版業界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。
 今回は、話題の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社刊)でデビューした燃え殻さんです。
 「1999年夏、地球が滅亡しなければボクたちは一緒に生きていくはずだった」
 まだスマホがなかった頃の、「ボク」と小沢健二フリークの「かおり」の、文通から始まった不器用な恋愛模様。そしてSNSがつないだ現在と過去。
 90年代後半のカルチャーを散りばめながら、大人になりきれない若者たちが必死に生きる姿と描いたこの青春小説は、ウェブメディア「Cakes」連載時から大きな反響を呼び、満を持して書籍化されました。
 作者の燃え殻さんは、普段はテレビ番組の美術制作に携わるサラリーマン。
 少し前まで「一般人」だった作者は、初めての著書にして自伝ともいえる本作がヒットした今、何を思っているのでしょうか。『ボクたちはみんな大人になれなかった』についてお話をうかがいました。
(インタビュー・写真/金井元貴)

―― 『ボクたちはみんな大人になれなかった』は書店で品薄状態が続くベストセラーになっていますが、実感はありますか?
燃え殻:僕、買う人がいるのか不安で発売当日に紀伊國屋書店に行ったんですよ。そこで2冊購入したんですけど、まだたくさん積まれていて「これはまずい」と。でも、何日かした後にまた書店に行ったら品薄になっていて「マジで!?」と驚きました。

――数日で積まれていた本がなくなっていた。
燃え殻:「誰が買ってくれたんだろう。父かな? お父さんありがとう…」と思いましたね。それに、ちょうど僕が書店の中にいるときに、本を手にとってくれた女性を目撃して、一瞬恋に落ちましたね(笑)。なんて良い人なんだろう、と。

――書籍の帯にコメントを寄せている方々も豪華です。糸井重里さん、吉岡里帆さん、大根仁さん、小沢一敬さん、堀江貴文さん…。
燃え殻:すごくありがたいです。「Cakes」でこの小説を連載していたときに、面白いと言って下さった方々にコメントをお願いをしたのですが、ここまで豪華になるとは…。

――この小説はもともとウェブメディアの「Cakes」で連載をされていた作品ですが、そのきっかけを作ったのがツイッターでした。燃え殻さんはツイッターをかなり早い段階から使っていたんですよね。
燃え殻:ツイッターをはじめたのは2007年くらいです。確か仕事のお客さんとか、ゲーム会社の方に教えてもらって、140文字しか書けない媒体で、何かよく分からないけれど登録してみようと。

――「ミニブログ」と言われていましたよね。
燃え殻:最初は面白さがあまり分からず、新しいという理由でやっていて、仕事の関係者とのコミュニケーションだったり、会社の日報だったりみたいなことを書いていました。でも、せっかくいろんな人が見るのだから面白いことを書こうという気持ちはあって、自分なりに工夫しながら、ちょこちょこと続けていた感じです。

――この小説の文章は、その一文に様々な風景や感情が濃縮されているように感じます。これは140文字で培ったものなのでしょうか。
燃え殻:僕自身、読書家ではなく、短いセンテンスでいろんなものを表現している文章の方が読み進められる人間なんです。だから、僕と同じようにツイッターの短文に慣れ親しんでいる人たちも読んでくれるんじゃないかという淡い期待がありました。
 ツイッターで感想を読んでいると、普段本を読まないという人たちもこの本を面白いと言ってくれているので嬉しいです。
 読みやすさや情景が浮かぶ文章作りは、小説を執筆する中で常に心がけていたことです。ツイッターやインスタグラム、フェイスブック、インターネットの記事、ケータイゲームなどいろいろ娯楽やツールがある中で、どうすれば小説を読む時間をつくってくれるのかなと思いながら書いていましたね。

――主人公の「ボク」の気持ちに共感する男性はかなり多いと思います。私もその一人です。自分のことが書かれているのではないかと感じました。
燃え殻:私事に引きつけられないと読んでもらえないように思ったんです。僕は学生の頃から中島らもさんや大槻ケンヂさんの本が好きだったのですが、それらの作品の中には「あ、これ俺のことだ!」とか「俺の代わりにこの人が言ってくれている」っていう体験が必ずあったんです。だから、この本を読んだ人にも、そういう経験をしてもらいたいという気持ちがありました。

――プロモーション動画の冒頭にあった「昔好きだった人をSNSで見つけてしまったことはありますか?」というキャッチコピーはえぐられました…。
燃え殻:これ、ありますよね?

――あります。まさにフェイスブックの「友達」候補に出てきたり。
燃え殻:「友達になる」ボタンを押したら大変なことになる、みたいな。まさに事件ですよね(笑)。でも今さら見なかったことにもできない。心臓に悪いので、良くないと思うんですよ。

――でも、この物語はそこが起点ですよね。
燃え殻:そうですけどね。友達候補として出てきたらやっぱり見たくなっちゃうじゃないですか。それで覗いてみるんですけど、不幸せになるだけですよ(笑)。

――昔好きだった女の子はもう結婚していて、子育ての様子をずっとアップしている、みたいな。
燃え殻:一方で自分は…というと、地獄ですよね。それと同時にセンチメンタルな気持ちも生まれて。

――そう考えると、SNSは不思議な媒体です。決して交わることのなかった2人の人生を再び交差させるわけですから、なんだか物語性があります。
燃え殻:関係を終わらせてくれないですよね。本当はだんだんと離れていって「そういえばあんな人もいたな」と、それでいいはずなんです。でも、しばらく顔を合わせていないのに「いいね」を押し合うし、「誕生日おめでとう」と言い合う。それが毎年ずっと続いていくというのは奇妙な感じがします。
 最近、フェイスブックで「○年前これをしていました」という投稿が出るじゃないですか。でも、「思い出させないでくれよ」というエントリも結構あって、ずっと過去に縛られて関係を終わらせてくれない感じがしますね。

――そこに物語が生まれたのが、この小説だったのでは。
燃え殻:まさしくそうでしょうね。それが幸せなのか不幸なのかは分からないですが…。

――関係の再構築という意味では、燃え殻さんのような40代前後の方々がかなり共感されているように思いますが、若い読者はこの小説をどのように受け止めているのでしょうか?
燃え殻:実は僕らとあまり変わらないようです。「Cakes」連載時に、高校生の女の子から「私はリアルタイムではないけれど、懐かしさを感じました」という感想をいただいて、嬉しかったです。
 僕がまだ若い頃、大槻ケンヂさんの著書を読んだ時に、ケンヂさんの若いときの恋愛エピソードを見て「これ、わかる!」って思ったことがあったんです。その時はまだ女性と付き合ったことがなかったんですが、「わかる!」と(笑)。
 おそらくこの本を読んでくれた若い方々も、リアルタイムではないかもしれないけれど、感性や気持ちの部分で重なるところがあるのだと思います。

――起きている事象は違うけれど、感情は重なる。
燃え殻:物語を90年代に固めて、そこにあった出来事や固有名詞を散りばめているので、当時を知らない人にとっては全く関係ないことばかりなんです。六本木ヴェルファーレなんかは知らない若者も多いと思います。
 でも、「ヴェルファーレは知らないけれど今でいうならここだよね」とか「事象は違うけれどこういうシチュエーションなら同じこと言うよね」とか、そういう形でリアルに感じてくれているように思いますね。

――主人公の「ボク」というキャラクターについてお話をうかがいたいです。彼はテレビ業界の美術の仕事ではサクセスストーリーを歩んでいるように見えますが、その世界にどっぷり浸かれない鬱屈したものを抱えていますよね。盛り上がっているものを追いかけられないというか。
燃え殻:そうですね。この物語が共感されるのは、多分そういう感情を今でもたくさんの人が抱えているからだと思うんです。
 当時は裏原系とかが流行っていて、先端みたいな扱いをされていたけれど、そういうブームを横目で見ながら乗りきれていない自分がいるわけです。それは、今でいうならインスタに料理やおしゃれな写真をどんどんアップしていくような人たちを見て、「やってみよう」と思って手を出すけれど、やっぱり乗れない。でもちょっとまたトライしてみて…そういうサイクルと変わらないように思います。
 また、今流行っているものが本当に良いものかどうかは分からない。けれどそういう空気感があるから「良い」って言ってしまうことってありますよね。
 この小説にも書いたけれど、当時小沢健二は良いよねという空気感あって、実際は本当に良いかわからないけれど、なんとなく背伸びして「良いね!」って言っていた。だからこそ今、小沢健二を聞くと、懐かしさや感傷に浸れるのだと思うし、それは「良いね」と言いながらも「でも、本当にいいのかな」って真剣に思っていたからじゃないかと思うんです。

――本作には90年代のキーワードとなる固有名詞が散りばめられていますが、主人公が若いからこその「消化できない感」が伴っているように思います。固有名詞を散りばめたのは意識的なものですか?
燃え殻:これは意識的にしています。当時の匂いやカルチャーの輪郭をはっきりさせることでリアルさを上げて、「ああ、俺もあそこにいたよ」という感じを出したいと思っていました。

――もう一つお聞きしたいのが、主人公から見た女性キャラクターです。恋人のかおりは作中を通してどんな人なのか輪郭がぼんやりしているのですが、途中で出てくるスーという女性は輪郭がはっきりしていました。おそらく主人公とかなり近い感覚を持っているからなのだと思いますが、かおりよりもスーを通して主人公の姿が見えたように思いました。
燃え殻:書籍版の担当編集者は女性なのですが、かおりがどういう人間なのか見えないということは、彼女にも言われました。ただ、主人公はなぜ自分が彼女のことが好きだったのか全く把握できていなくて、だからこそ思い出として消化できていない部分があるんです。だから、彼女が何を考えていたのか書き加える議論もあったのですが、分からないままにしようという話もしました。

■20代と30代・40代になってからの恋愛は「変わらない」

――本作は青春小説であり、恋愛小説でもありますが、20代前半の恋愛と30代、40代になってからの恋愛の違いってどこにあると思いますか?
燃え殻:これは本当のこと言ってほしいんですけど、変わらなくないですか?

――私は今33歳ですが、変わらないです。
燃え殻:僕もそうです(笑)。全然変わらない。自分は今43歳ですけど、20代の頃と感覚があんまり変わっていない。

――私も大人になりきれない自分がいます。
燃え殻:そうですよね。あまり子どもじみたことを言うとサムいから、年齢に則した振る舞いをしようとはしていますけど、全然変わっていないんですよ。
 これは、担当編集に怒られたのですが、最初に行くラブホテルは20代に行った場所と同じという設定だったんです。でも、20年も経って同じラブホテルに行ってるんじゃないよ、と(笑)。別にお金がないわけでもなく、しかも全然違う女の子と、何で当時と同じ神泉の安いラブホテルに行くんですかと言われて。なるほど、女性の視点だとそうなるのか。

――でも、本音を言うと同じところに行ってしまいそうですよね。
燃え殻:そうですよね? なんか、あえてそこに行きたいんですよね。安心感がありますし。

――主人公は『ホットドッグ・プレス』という男性誌から多大な影響を受けていますよね。それが今に至るまでの行動原理になっているのと同じです。
燃え殻: そうそう! 本当にそうです。僕も当時、付き合っている人もいないくせにデートの仕方を真剣に読んで、袋とじでホテルの誘い方を勉強したりしましたから。「なるほど、花火大会が終わったらこう誘うのか」みたいな。お前の周囲の異性といったら母親だけだろってツッコみたいですよ(笑)

――しかも、毎号そういう特集があるんですよね。
燃え殻: ありましたよね。女の子にモテるテクニックとか。水着のグラビアアイドルが「私はこういうデートが理想」って言っていて、「これは覚えておかないと…」と読み込んだりして。

――『ホットドッグ・プレス』という雑誌名と、かおりをエスコートするシーンを重ねると、当時思春期だった男性陣は「俺、これやった!」と思うでしょうね。
燃え殻: それくらい影響力がありましたからね(笑)。

―― クライマックスのシーンに引っかけて、今、デロリアンに乗れるとすれば1999年7月22日に戻りたいと思いますか?
燃え殻: その日に戻りたいとは思わないけれど(笑)、誰でも「あのときに戻ったらもっと上手くやるのに」というタイミングがあると思うんですよ。僕自身もこの小説を書くまではそう思っていたんだけど、本を書く中で「あ、これは何度繰り返してもフラれるな」と気付いたんです。多分「やり直そう」と言っても無理で、だから「ありがとう」と伝えたいと思ったんですね。

――それが自分自身の決着になるわけですね。
燃え殻: 感謝やお別れの言葉を伝えるのって、実は難しいんです。たくさんの人と出会って別れてきたけれど、ほとんどの人には別れの言葉を告げていないと思うので。

――先ほど『ホットドッグ・プレス』の話題が出てきましたけれど、他に影響を受けた雑誌を教えていただけますか?
燃え殻:『ROCKIN'ON JAPAN』は読みましたね。兵庫慎司さんの文章は特に好きで、BLANKEY JET CITYや電気グルーヴ、渋谷系ド真ん中の記事は貪るように読みました。
あとは『週刊プロレス』に当時ターザン山本さんという編集長がいて、実際の試合よりも面白い観戦レポートを書いていたんです。「これ、ほぼ創作じゃん!」って驚いたこともありました(笑)。
 どちらの雑誌も、現実を超える物語を誌面上で作ってしまうことがあったんですよね。アルバムを聴くよりも、1万字インタビューの方が感動したり。大好きでした。

――この小説には90年代のカルチャーが背後に流れていますが、音楽についてはいかがでしたか?
燃え殻:この小説の核となる小沢健二や、電気グルーヴはよく聴いていました。電気グルーヴは当時「オールナイトニッポン」をやっていて、世の中にノイズという音楽があることを石野卓球さんが教えてくれたんです。世の中はビーイング系全盛なのに午前1時になると「WANDSを聴いている皆さん、これを聴いて下さい!ノイズです!」と言ってBOREDOMSを流し始めるわけですよ。「うわ、俺、悪いもの摂取している!」みたいな(笑)楽しかったです。

――この「ベストセラーズインタビュー」では、毎回影響を受けた本を3冊ご紹介いただいているのですが、燃え殻さんはいかがですか?
燃え殻:まずは、中島らもさんの『永遠も半ばを過ぎて』。次に大槻ケンヂさんの『リンダリンダラバーソウル』。あと一冊は、岡崎京子さんの『Pink』です。どの本も高校生や専門学校くらいの頃に読んでいました。
 中島さんも大槻さんも、岡崎さんも、ポップなのにすごく普遍的なことを書いているんです。人間ってこうだよねっていう本質的なことが書かれていて、今でも自分の中にそこで読んだ言葉が残り続けています。

―― 最後にタイトルに引っかけて、「大人になる」とはどういうことだと思いますか?
燃え殻:いろんなことに疑問を持たずやれる人…ですかね。僕は集団行動が苦手で、どんなことでも「なんで?」って思ってしまうんです。だから、自分の中で納得して「そういうものだから」と流せる人が大人だと思いますね。
 ただ、僕の周囲にも、自分みたいに大人になれなかった人がたくさんいたし、そういう人たちの方が人間臭くて好きなんですよね。不器用だけれど、一生懸命生きているから。

取材後記
「気のいいお兄さん」という雰囲気をまとった燃え殻さん。自然体でお話する姿はとても格好良く、90年代後半から2000年代前半のカルチャーについてもっとお話したいと思いました。
生きにくい社会をもがきながら歩いていく人々を映し出す本作は、世代を超えて共感を呼びます。もちろん当時のカルチャーを知っている読者はこの小説にどっぷり浸かることができますが、当時をリアルタイムで知らない人も不思議と「懐かしさ」を感じることができると思います。
そして、読み終わったに残る、とにかく走り出したいようななんだかもどかしい感情をぜひ体験してください。

■燃え殻さんが選ぶ3冊

『永遠も半ばを過ぎて』
著者: 中島 らも
出版社: 文藝春秋

『リンダリンダラバーソール』
著者: 大槻 ケンヂ
出版社: 新潮社

『pink』
著者: 岡崎 京子
出版社: マガジンハウス

■ 燃え殻さん
都内で働く会社員。休み時間にはじめたTwitterで、ありふれた風景の中の抒情的なつぶやきが人気となり、多くのフォロワーを獲得。「140文字の文学者」とも呼ばれる。ウェブで連載した小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」が話題となり、本作がデビュー作となる。

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