悩んで読むか、読んで悩むか

「彼女」ともう一度“出会って”みては 斎藤環さん

2017年10月08日

61年生まれ。精神科医で批評家。筑波大教授。『オープンダイアローグとは何か』(著・訳)など。

■相談 マナーが悪い友人と疎遠になりたい

 25年来の友人(二つ年下の女性)と疎遠になる方法を探しています。彼女は食事のマナーが悪く、デパ地下では店員さんに試食のし過ぎを注意されます。言葉遣いも乱暴。会うのは年に1回くらいですが、電話やメール、手紙は月に何回か来ます。返事の回数を減らし、内容も素っ気ないものにしていますが、逆上されないか心配です。何か参考になる本はないでしょうか。(長崎県、主婦・45)

■今週は斎藤環さんが回答します

 マナーの悪い友だちを切り捨てたい? そんなもん簡単ですよ。わざと頻繁に会って彼女が「やらかす」のを待ち、案の定やらかしてくれたらそれを理由に切ればいい。本など読むまでもありません。
 しかしまあ、そんなんでよく25年もつきあいましたね。しかも本を参考にしたい? わかった、あなた本気じゃないでしょう。食事のマナーが悪い、すなわち「育ちが悪い」であろう彼女を切り捨てたい自分の気持ちに、罪悪感とうしろめたさを感じている。そうに違いありません。
 そんなあなたにぴったりの小説があります。角田光代さんの直木賞受賞作『対岸の彼女』です。女同士の友情を描く本作のヒロインは、子育て中で人付き合いの苦手な主婦、小夜子。彼女は引っ込み思案な自分を変えるべく働きに出ようと決意して、同じ大学出身の社長、葵と出会います。葵が経営する旅行会社に雇われ、小夜子は順調に仕事になじんでいきますが、ふとしたことから葵の過去を知り、溝が広がります。
 この現代の物語と並行して描かれるのは、葵の高校生時代です。中学時代にいじめを受けて転居したのに高校でもスクールカーストの中で窮屈な思いをしている葵は、孤立しているのに快活なナナコと親しくなります。バイトで稼いだ金を持って家出した二人は、心ない噂(うわさ)を立てられ離ればなれに。ナナコと葵、葵と小夜子。二つの関係は似ています。
 これ以上のネタばらしはしませんが、本作から印象的な一節を引用しておきましょう。「なぜ私たちは年齢を重ねるのか。生活に逃げ込んでドアを閉めるためじゃない、また出会うためだ。出会うことを選ぶためだ。選んだ場所に自分の足で歩いていくためだ」
 駄目な人、弱い人、懲りない人。そんな人を切り捨てるのは、たやすいことです。でも、あなたもうすうす気づいているように、文学はそういう人たちに寄り添うためにある。この小説で、ちょっとでも心が震えたら、もう一度そのお友達と“出会って”みてはいかがでしょうか。
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 次回は俳優の石田純一さんが答えます
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 ■悩み募集
 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。斎藤さんと石田さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。荻上チキ(評論家)、壇蜜(タレント)、穂村弘(歌人)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、山本一力(作家)、吉田伸子(書評家)。

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