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塩川桐子「差配さん」 江戸の人情(ニャン情?)噺にほっこり

差配さん [作]塩川桐子

 舞台は江戸の街。浮世絵さながらの美女が「一緒になりたい人がいるから」と、おさな子を「差配さん」と呼ばれる面倒見のいいおやっさんに預け、そのまま立ち去る。薄情な母親もあったものだ、と思いつつ読み進むと、どうも様子がおかしい。残された坊やと差配さんのセリフや行動に微妙な違和感が漂うのだ。
 その理由がわかったときの納得感がすごいので、本当は一切の予備知識なしで読んでほしい。が、そこに触れないと作品の勘所が伝わらないというジレンマ。まあ、カバーや帯で自らネタばらししているので、ここでも書いてしまうが、差配さんも坊やも母親も、実は猫なのである。
 擬人化された猫たちが、江戸の人々の暮らしの諸問題にさりげなく関わる。あるときは夫婦ゲンカを丸く収め、またあるときは自害した娘の心残りを晴らしたかと思えば、病気で寝たきりの子に寄り添い、もらわれた先の養蚕農家でネズミ退治に精を出す。
 差配さんを中心に展開される人情(ニャン情?)噺(ばなし)に、ほっこりと心温まる。端正な作画と粋なセリフ回しは名人芸。本来の姿で描かれたときの猫たちの可愛さもたまらない。生きとし生けるものへの愛を感じる連作集である。=朝日新聞2017年10月22日掲載