悩んで読むか、読んで悩むか

取り返しのつかない嘘もある 吉田伸子さん

2017年11月05日

 61年生まれ。書評家。「本の雑誌」の編集者を経てフリーに。著書に『恋愛のススメ』。

■相談 「ウソはいけない」と教えるには

 7歳の甥(おい)がウソをついたとき、「オオカミ少年」の話をして「ウソばかりついていると、誰にも信じてもらえなくなるよ」とたしなめたところ、「じゃあ、1、2回はウソついてもセーフってことだよね!」と返されました。とっさに良い反論が思い浮かばず、ごまかしてしまいました。甥に「ウソはいけない」と伝える良い本はないでしょうか。(三重県、無職女性・44歳)

■今週は吉田伸子さんが回答します

 相談者さんの甥ごさんは、聡(さと)いお子さんなのでしょうね。そういう子には、頭ごなしに「嘘(うそ)はダメ!」と言うよりも、嘘には“いい嘘”と“悪い嘘”があるんだよ、と論理的に諭してみてはどうでしょう。
 というのも、私自身、単純に嘘はダメ、とは思えないのです。英語にはwhite lieという言葉があります。相手を傷つけないための嘘、という意味です。嘘は嘘でも、そういう嘘ならいいのでは、と思うのです。とはいえ、そのままだと甥ごさんには難しいかもしれません。なので、『泣いた赤おに』(浜田廣介著、ポプラポケット文庫、616円)のお話をしてあげるのはどうでしょう。
 青鬼が、自分のことを悪い鬼だ、とひと芝居うつ=嘘をつく。けれど、その嘘は、大事な友だちである赤鬼のためについた嘘なのです。聡い甥ごさんなら、何か感じるところがあるはず。
 それとは逆に、ついてはいけない嘘、もあります。そちらは、宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証(ぎしょう)』を。
 物語は、ある雪の朝、校舎から転落死した一人の中学生が見つかるところから始まります。彼が転落したのは、事故なのか、事件なのか——。彼の死の真実を、彼と同じ中学の生徒たち自らが「裁判」によって(生徒が検察側と弁護側に分かれ、陪審員も生徒が担います)明らかにしていくミステリなのですが、物語のなかに、ついてはいけない嘘をついてしまった登場人物が出て来ます。そのことによって、思いもよらぬ方向へと物語は進んでいきます。
 ついてはいけない嘘をついてしまった人は、最初はちっとも反省なんかしない。けれど、物語が進んでいくうちに、自分のついた嘘でがんじがらめになっていきます。なにより、その嘘が招いたことで取り返しのつかないことが起こってしまう。
 作者の宮部さんが、中学生という、半分子供半分大人のような、彼らの可塑(かそ)性を信じて書かれた物語だと私は思っています。まずは相談者さんが読まれて、甥ごさんが大きくなられたら、勧めてみてください。
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 次回は評論家の荻上チキさんが答えます。
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 ■悩み募集
 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。吉田さんと荻上さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、斎藤環(精神科医)、壇蜜(タレント)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、穂村弘(歌人)、山本一力(作家)。

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