速水健朗の出版時評

図書館と文庫 対立生まぬ貸し出しに期待

2017年11月05日

東京都内の区立図書館。約1万冊の文庫が並ぶ。開架図書の約8%を占めるという

 「(図書館での)文庫の貸し出しをやめてください」。全国図書館大会での文芸春秋松井清人社長の発言に、多くの反論が寄せられた。反論の多くは、出版の低迷を他人のせいにするなというものだ。
 再反論の取材において文春社長は「低迷の原因は図書館にあるなどと言うつもりはない」(弁護士ドットコム)と弁明。その上で「せめて安い文庫本は買っていただきたい」と本来の趣旨を述べた。
 本を書く立場からは共感する。「あなたの本、読みました。図書館で借りて」といわれるのは複雑。ついつい「お金を出してまで読むつもりはないということ?」と言外の意図まで勘繰ってしまう。
 図書館と出版界を巡る軋轢(あつれき)は、これが初めてではない。2年前には新潮社社長が、公共図書館によるベストセラーの複数購入問題を指摘した。
 今回の議論の肝は「文庫」にある。文芸評論家の仲俣暁生は、『マガジン航』にて文庫という形態の「そもそも」を論じる。文庫は「誰もが良書を個人蔵書としてもてる」という目的で、廉価版、ミニサイズで登場した薄利多売のビジネスと指摘。その意味において、値段を安くしたから買ってほしいとの文春社長の主張は筋が通っている。だが仲俣はこう主張する。いまの文庫本は「単なるマネタイズ(収益化)のための『装置』」ではないかと。
 かつては、一度文庫化された本は、スタンダードとして10年以上書店の棚に並んだ。今の文庫本は違う。数カ月で消えていく足の早い商品だ。時代を経ても読まれるべき「良書」だから「買って欲しい」という論理は当てはまらない。むしろ、文庫を残すことは図書館の収集・保存という役割に沿ったものなのだ。
 両者にメリットを生む仕組みはないか。ジャーナリストの津田大介は「図書館型(読み放題)の電子書籍サービス」を提案する(『週刊朝日11月3日号』)。図書館が購入し、貸出数に応じたライセンス料を出版社に支払う方式は、カナダなどで採用済み。これからの出版と図書館が敵対しない仕組みの登場に期待したい。

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