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いのち愛しむ、人生キッチン [著]桧山タミ

2017年11月12日

■新鮮な「当たり前」がいっぱい

 私の祖母は、明治時代の終わりに生まれた。盛夏以外は着物に袖を通し、よく働く人だった。共働きだった両親にかわって家事全般をこなすのは祖母で、特に料理は、祖母の手によるところが大きく、私は祖母の手料理を食べて大きくなった。祖母は、料理上手だった。
 その祖母と、タミ先生の姿が重なる。タミ先生は、九十歳代となられた今も、現役の料理家として、幅広い年代の生徒さんたちに料理を教えている。そして、料理だけでなく、生き方そのものまで教えてくださる。ページをめくりながら、なんだか祖母と対話をしているような、懐かしい気持ちに包まれた。
 筍(たけのこ)には女筍と男筍があり、女筍の方がアクが少なくて柔らかいというのも、初めて知った。記憶を探ると、確かに筍には、切った断面が、丸いのと楕円(だえん)のがある。丸は男筍、楕円は女筍。これを知っているだけで、おいしい筍が簡単に見分けられるようになる。こういう知識は、八百屋さんでも教えてもらえない。
 また、神様と仏様の好物の違いに関しても、興味深かった。曰(いわ)く、神様は自然に近いものを、仏様は人の手で作られたものを好まれるので、同じ小豆でも、神様には粒あんを、仏様にはこしあんをお供えするといいという。これまで、そんなこと考えもしなかった。
 タミ先生の教えの中心になっているのは、当たり前のことを、当たり前にすること。きっと祖母たちの世代では、卵の殻を洗剤の代わりとして使ったり、新聞紙や広告をキッチンペーパーの代わりとして使ったりすることは、当たり前だったのだろう。この本には、そんな、私たちからすると新鮮な「当たり前」が鏤(ちりば)められている。
 それにしても、タミ先生のちらし寿司(ずし)が、美味(おい)しそうだ。料理とは、相手の命を慈しみ、優しさを届ける最高の手段。料理を通して神様のお役に立ちたい、という先生の言葉が、ずしんと胸に響く一冊だった。
 小川糸(作家)
    ◇
 文芸春秋・1566円=6刷8万4千部。17年7月刊行。著者の地元、福岡から人気に火が付いた。50代以上の女性を中心に若い世代の女性や40代以上の男性にも広がっている。

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