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琥珀の夢―小説 鳥井信治郎(上・下) [著]伊集院静

2017年11月12日

■「ええ商い」目指した創業者の信念

 サントリー創業者・鳥井信治郎の波乱の生涯を描いた評伝小説。著者初の企業人を題材とした作品であり、新聞連載時から耳目を集めた。
 全編から伝わってくるのは明治、大正、昭和を生きた日本人の息吹である。主人公をはじめ大阪・船場の商人たちの底知れぬエネルギー。周囲の猛反対を顧みず、「誰もやってへんことやさかい、やるんだすわ」と国産ウイスキー造りに邁進(まいしん)する主人公の狂気にも似た熱情に圧倒される。
 サントリーが創業者から受け継いだものに、挑戦を恐れない「やってみなはれ」の精神があるといわれる。だが、本書で強調されるのは、人に知られぬよう善行を積む“陰徳”の尊さだ。今日のCSR(企業の社会的責任)にもつながる「周りの皆がようなるのがええ商い」との信念は、古くから日本の商売の礎に「利他の心」があったことを思い起こさせてくれる。
 信治郎の人物造形には小説らしい脚色もあるだろう。しかし、先を読む眼力や決断力、巧みな広告戦略など、類いまれな経営センスを持っていたことは確かで、ビジネス的な読みどころも多い。息詰まる現代社会に生きる身には、当時の人々のたくましい生命力がなぜか眩(まぶ)しい。
 梶山寿子(ジャーナリスト)

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