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松本大洋「ルーヴルの猫」 美術館の絵の中に消えた少女を探して

ルーヴルの猫(上・下) [作]松本大洋

 世界の気鋭作家たちがルーヴル美術館を題材にしたマンガを描く企画が進行中だ。本作もその一環。日本からは荒木飛呂彦、谷口ジローに続いて松本大洋の登場である。
 ルーヴルでガイドとして働くセシルはある日、観覧者に紛れて絵を見つめる白い猫に気づく。それは屋根裏部屋に隠れ住む猫のうちの一匹だった。世話しているのは夜警のマルセル。彼は50年前に失踪した姉が絵の中に入ってしまったと信じている。誰もが一笑に付した話をセシルは受け止め、その絵を探すことを提案。猫と少女と絵をめぐる不思議な物語が展開される。
 松本大洋の描くルーヴルは生き物のようで、猫やセシルやマルセルと一緒に夜の館内を歩き回る擬似(ぎじ)体験は、駆け足のツアーより魅力的。場面によって擬人化される猫たちは個性的で、猫の姿と人の姿がコマごとに入れ替わっても違和感がない。これはマンガにしかできない芸当だ。
 絵の中の楽園と現実世界の対比、草木が芽吹く春から凍(い)てつく冬を越して次の春までの物語は、生老病死を映し出す。しかし、今年2月に世を去った谷口ジローへのリスペクト的シーンも含め、最終的には生きる希望を抱かせる。人はそれを芸術と呼ぶ。=朝日新聞2017年12月3日掲載