速水健朗の出版時評

POSとスリップの技法 独自の棚作りで発信力強化

2017年12月03日

携帯できるPOS端末。無線LANで店内どこでも使える=東京・神保町の三省堂書店

 この10年、書店の発信力の時代が続く。カリスマ書店員の仕掛けからベストセラーが生まれ、「本屋大賞」は市場に大きな影響を与えている。
 その背景に出版市場の縮小やネット書店の進出がある一方で、POSシステムの普及による書店環境の変化に対する現場からの抵抗という要素もあるかもしれない。
 POSとは在庫管理システムのこと。書店チェーンや大手取り次ぎが集めたデータを書店が参照する仕組みである。書店員が手持ちの端末で書籍からピピッと情報を読み取る光景を見かけることがある。端末にリアルタイムで売れ筋のランキングが示され、棚づくりに反映されていく。
 売れている優れた本がいち早く棚に並ぶようになったことはPOS導入の功績だが、一方、チェーン店化が進む中で書店員の専門スキルが軽視され、非正規労働者の割合が増えるという実質的なリストラが進んだことも事実だ。
 だが最近では、POS以前の仕組みである「スリップ」を見直す動きも。スリップとは本に差し込まれる二つ折りの長細い伝票だ。かつてはそれを仕分けることで売れた数を把握し、次の注文に活(い)かすことが書店員の仕事だった。
 『スリップの技法』(苦楽堂)は、元書店員が書いた独自性のある棚作りを提唱する本である。「全国的に売り上げ上位の本は、どの書店でも売れる可能性が高いですが、店舗独自の売り上げを構成するのは、中位グループの本。店ごとに異なる既刊ロングセラーを見つけるかで売り上げは変わる」というのは、著者の久禮(くれ)亮太氏。彼は客が買った本の組み合わせに着目して客層を推測し、次の品揃(しなぞろ)えのアイデアにつなげる。スリップとPOSの共存という提案である。もうひとつ重要なのはバランス。「独自の視点が行き過ぎると担当者の独善的な選書になってしまう」
 これ見よがしな書棚の並びでは近寄りにくさを感じてしまうもの。やりすぎないのも書店員の腕の見せどころだ。
 再訪したくなるアイデアあふれた場所。書店にはそうあって欲しい。

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