悩んで読むか、読んで悩むか

どこかに自分の隙間があるはず 穂村弘さん

2017年12月17日

■相談 打たれ弱く社会に出るのが怖い

 社会に出ることが怖いです。人付き合いが苦手で打たれ弱い性格のため、社会人として生きていく自信が持てません。学生時代の就職活動も満足に行えず卒業してしまい、これからどうしていくべきかわかりません。自立したい気持ちはありますが、それ以上に恐怖感が強く、身動きが取れずに焦りだけが募っています。一歩踏み出せるような本を紹介してください。(徳島県、無職女性・24歳)

■今週は穂村弘さんが回答します

 確かに「人付き合いが苦手で打たれ弱い性格」の人は社会には歓迎されない、というイメージがありますね。私もそのタイプなのでびりびり感じます。以前、ウェブ上で奇妙な「アルバイト募集」の看板を見たことがあります。「職種・座ってるだけ、備考・元気のない方、昼寝付、時給・1000円以上」。思わず画像を保存してしまいました。「年令・80才以上」だったから応募はできないし、ちょっと怪しいけど、心の支えにしようと思って。まあ、逆に云(い)えば「元気のない方」の募集はそれだけ珍しいってことですよね。
 「元気のない方」は最初の「一歩」を踏み出すのがいちばん難しい。社会の表向きの顔が、歓迎しませんって表情に見えるから。でも、なんとかして潜り込めれば、社会のどこかには自分の個性が嵌(は)まるような小さな隙間はあるはず。例えば、今の私は言葉を五七五七七の形にすることを軸に生活しています。そんな風に、社会の隅や端や奥には、さまざまな形の居場所が存在する。問題はそこに辿(たど)り着く道がわかりにくいこと。社会の外からは大きな会社の姿くらいしか見えないから。
 ここでは社会の隙間にある奇妙な居場所を描いた小説をご紹介します。『東京ロンダリング』(原田ひ香著、集英社文庫、475円)と続編の『失踪.com』です。
 〈こうやって家にいるだけで、日給が五千円もらえる。コンビニで働いたら、一時間千円の時給だとしても五時間分です。〉
 しかも家賃は無料。うまい話には、もちろん理由があって、これは「不動産ロンダリング業」つまり事故や事件で人が死んだ部屋に一ケ月間だけ住んで浄化するという仕事なのです。それを担う人々は「影」と呼ばれます。行き場のない人、どうしていいかわからない人、全てを失った人、社会的には怪しい存在である「影」たちは、やがて大きな戦いに巻き込まれることになります。その相手は「人付き合いが得意で打たれ強くて元気のある」社会を裏で支えている本当にブラックな何かです。
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 次回は精神科医の斎藤環さんが答えます。
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 ■悩み募集
住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。穂村さんと斎藤さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、荻上チキ(評論家)、壇蜜(タレント)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、山本一力(作家)、吉田伸子(書評家)。

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