悩んで読むか、読んで悩むか

「自分が何したいか」もっと大事 斎藤環さん

2018年01月07日

斎藤環さん

■相談 新しい友人の前で素の自分を出せない

 昨年4月から高校生になった女子です。高校に入って新しい友だちもできました。しかし、中学のころのように素の自分の性格(周りの子とキャーキャー言って騒いでふざける)を出せません。新しい友だちの前では、いい子ぶって、静かにしています。本当は初対面であっても素の自分を出したいのですが、参考になる本を紹介していただけませんか。
 (兵庫県、高校生、女性・16歳)

■今週は斎藤環さんが回答します

 僕が思うに、君はたぶん「キャラ」に縛られていると思う。もう半年以上も友だちやグループの前で「いい子キャラ」を演じてきたから、今更そのキャラを降りられない、ということもあるんじゃないかな?
 思春期は、他人からの視線に過敏になる時期だ。そんな視線の中で「素の自分」を出すってけっこう覚悟がいるよね。そういう今どきの高校生の「他人から値踏みされる意識」をリアルに描いているのが、映画にもなった朝井リョウの小説『桐島、部活やめるってよ』。初老の僕まで自分の惨めな思春期がフラッシュバックしてくるやばい本だよ。
 バレー部のエース、桐島がやめるという噂(うわさ)が学校中を駆け巡る。彼をめぐる何人かの生徒の生活が繊細にスケッチされる。生徒同士が互いの視線を気にしたり、特に相手よりも「上」か「下」かを瞬時に判断したりするあたりの描写が、えらく生々しい。こんな場所で「素の自分」を出しても、せいぜい「素を演じてるキャラ」と思われるだけじゃない?
 特に印象的なのは、典型的な「上」の生徒、「菊池宏樹」の章。スポーツ万能で可愛い彼女もいるリア充の宏樹は、このところ何かに苛立(いらだ)っている。何でもできてしまうのに、自分がしたいことがわからないこと。何事にも本気になれないこと。そんな彼がふと羨(うらや)ましく思う相手は、野球一筋の部活の先輩であり、映画製作に夢中の同級生、前田涼也だ。映画部の前田は、典型的な「下」の生徒。ふだん口をきいたこともない「上」の階層の宏樹から話しかけられて、つい感動してしまうようなダサい生徒だ。そんな前田が真剣にカメラに向かう姿に、宏樹は「ひかり」を感じたのだ。
 「自分がどう見られるか」も大事だけど、「自分が何がしたいか」はもっと大切。そんなふうにも読める本だけど、君が読んだらどんな感想を持つだろうか。朝井さんには大学生の就活を描いた『何者』(新潮文庫、637円)という傑作もある。できれば両方読んでみて、君が感じたことを大切にして欲しい。
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 次回はタレントの壇蜜さんが答えます。
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 ■悩み募集
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