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「江副浩正」 リクルート、事件より人材輩出に注目

江副浩正 [著]馬場マコト、土屋洋

 本書はリクルート創業者で、戦後を代表する実業家の一人でもある江副浩正(えぞえひろまさ)の評伝。著者はいずれも同社出身。
 1960年の起業、就職案内など各種情報誌の創刊、リゾート事業や情報通信業への参入など、経営者江副の足跡を辿(たど)る。その過程で利幅の大きい不動産事業に傾斜し、この分野を手掛ける「環境開発」(のちのリクルートコスモス)を創業。その未公開株を政治家ら有力者に譲渡したことが発覚し、いわゆるリクルート事件が持ち上がる。
 前半では、江副が仲間と協力しながらアイデアを事業化し、会社を大きくしていく様子が生き生きとした会話を交えて描かれている。後半では、成功を重ねるうちに謙虚さを失い、投機性の高い株取引に夢中になり、たびたび妻に暴力をふるうなど、彼の性格的な問題も指摘している。
 事件を経て江副は財界の表舞台から姿を消したが、リクルートはその後、復活を遂げ、有能な人材を次々と輩出した。その背景には、社員の性別や年齢ではなく、あくまで実力・適性を重視した企業文化などがあるとし、多くの人々を巻き込んだ事件よりも、むしろこれらの功績をもって江副を評価すべきだというのが、本書の最大の主張である。=朝日新聞2018年2月4日掲載