1. HOME
  2. イベント
  3. オーサー・ビジット 教室編
  4. もう一人、級友がいたら… 作家・辻村深月さん@郡山市立郡山第五中(福島)

もう一人、級友がいたら… 作家・辻村深月さん@郡山市立郡山第五中(福島)

 「物語や登場人物は、どうやって考えるんですか」。生徒たちから寄せられた質問に、作家・辻村深月さんは「その答えになる課題を出します」と、にっこりすると、「30人目の3年6組の生徒を主人公に物語を考えてみよう」と、黒板に書き付けた。
 クラスにもう一人、仲間がいるとしたらどんな子か。「その子の悩みも考えて」と辻村さん。6班に分かれ作業開始だ。「私の意見に引っ張られないように」と、アドバイスを控えた辻村さんが見守るなか、「イケメンがいいけど、悩みあるかな?」「何か事件を起こさなきゃ」と、案を出し合う子どもたちは、配られたプリントに、主人公の特徴や、物語のあらすじを書きこんでいく。
 4班が考えたロシアからの転校生「池崎ジョン」は、クラスになじめないのが悩み。男子生徒たちを一人ずつ「筋トレ」に誘い、友情を育んでいく。「普段のクラスの様子が伝わってきて面白い!」と、辻村さん。
 生徒たちは宿題で「自分自身が主人公の小説」の構想も練っていた。辻村さんが「自分を主人公にしたときと比べて、どう?」と問いかけると、「実在の人物と違い、書きやすかった」と女子生徒。「自分自身を赤裸々に書くのは手加減してしまうけど、小説は、架空の人物に託せる」と、辻村さんはうなずき、学校に行かなくなった中学生を主人公にした『かがみの孤城』を取り上げた。不登校になるとしたら、どんな悩みがあったのかを考えて登場人物を作り出したという。「言葉は便利で、“いじめ”と書くと、人は理解したつもりになってしまう。一つの言葉に寄りかからずに、一人一人が受けた傷や、悩みを丁寧に書きました」
 「実は、小説を書き始めるとき、結末が決まっていないことがほとんど」と明かした辻村さん。「えー!」と、驚く生徒たちに「みんなも書いていくうちに、悩みや考えに整理がつくこともあるはず。私も最後の一行を探すために、書いています」とほほ笑んだ。
 (岡沢香寿美)

 <授業を終えて>
 池田光花さん「みんなのアイデアが集まって、物語がどんどん膨らんでいきました。小説作り、面白かったです」
 橋本隆祐さん「文章を書くのは苦手でしたが、本物の作家の辻村さんにほめられて、うれしかったです」
     ◇
 辻村さん「小説に限らず、作文や小論文は、気取った難しい言葉を使うのではなく、読んでくれる相手がいることを意識して、手紙のように書いてみてください。授業から何かを持ち帰ってくれたら、うれしいです」

 ●福島県郡山市、全校589人、阿部博校長。3年6組は29人。授業の担当は柳沼智恵先生(昨年10月開催)。=朝日新聞2018年2月26日掲載