速水健朗の出版時評

本の街・神田神保町 個性を残す新たな施設

2018年03月04日

神保町ブックセンター1階にオープンする書店のイメージ=UDS提供

 本の街、東京・神田神保町が少し心配である。
 にぎわいはあるが、主に飲食店。古書店はくたびれ気味だし、老舗の新刊書店が大手量販店に変わる。書店数減少の時代に、本の街は生き残ることができるか。
 一昨年、この街の中心に位置する「岩波ブックセンター」が閉店。跡地がどうなるか気になっていたが、4月にブックカフェとコワーキングスペースが同居する「神保町ブックセンター」が開業する。
 「コワーキングスペース」を含む複合施設は、昔の風情の残る神保町に似つかわしくないようにも映る。だが、高い地代を本の売り上げのみで賄うのは困難。複合的な事業で収益を狙う一方で、「本の街」の文脈と共存させるのが現実的といえるだろう。
 施設のアドバイザーでブックコーディネーターの内沼晋太郎氏は、「店で本を売る」だけで本の良さを伝えることが難しい時代という。「以前の古本街は本を探す人が来る場所でした。でも今は決まった本を探すならネットが早い。待っているだけではだめ」
 内沼氏は、イベントやワークショップを企画し「人を動かすための仕掛け」づくりを試みていきたいという。
 昨年刊行された『神田神保町書肆(しょし)街考』は、神保町の成り立ちを記した仏文学者鹿島茂氏の手による書だ。これによると、この一帯が書店街になったのは、明治中期。大正の震災後に今の中心部が形成される。「神保町ブックセンター」の地権者でもある出版社の岩波書店は、当時、神保町の古書店としてスタートし、その後にこの街の「ランドマーク」(地域を特徴付ける存在)へと成長したという。
 「日本の出版・書店文化のメッカ」。神保町の街の個性は、新刊書店、古書店、出版社の集積にあると鹿島氏は見ている。街そのものと文化・産業が一蓮托生(いちれんたくしょう)。危ういバランスで両立している。
 個性ある街を残していく手法は、多くは見つけられていない。ともあれ、神保町の街の中心に「本」絡みの施設が残る。

◆「出版時評」は今回で終わります。

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