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「大草原の小さな家」は『大草原のローラ物語』から始まった 谷口由美子さん講演

2018年03月09日

谷口由美子さん

谷口由美子さん

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 アメリカ開拓時代に生きる少女ローラと家族の心温まる児童文学『大草原の小さな家』シリーズは、TVドラマが人気だったこともあり、多くの日本人に親しまれている。その物語の原型になったのが、『大草原のローラ物語 パイオニア・ガール』(大修館書店)だ。今年1月に日本語訳が出版されたのを記念して、訳者の谷口由美子さんが『パイオニア・ガール』が生まれた背景や読みどころを講演した。

 「大草原の小さな家シリーズ」の主人公であり、著者のローラ・インガルス・ワイルダーは、全10巻の物語を書いた。『大草原のローラ物語 パイオニア・ガール』(以下、パイオニア・ガール)は、第1作目の『大草原の小さな家』が執筆される前に書かれた覚え書きに、ワイルダー研究者のパメラ・スミス・ヒルが解釈と注釈をつけたものだ。谷口さんは、2014年に原書が出版されてすぐに「訳したい」と熱望したという。

 日本で「大草原の小さな家シリーズ」が初めて紹介されたのは、1949年(昭和24年)。シリーズ6作目の『長い冬』だった。
「なぜ第1作目ではなかったかというと、『長い冬』が傑作だったことと、日本は戦後の混乱が少し落ち着き、ほっとした時期だったことが関係しています。『長い冬』は、ローラ一家が苦労も多い開拓生活から、ようやく落ち着いた暮らしを得た頃の物語です。『長い冬』が当時の日本人を励ますと考えたのでしょう」(谷口さん)

 谷口さんが初めて『大草原の小さな家』を読んだのは、小学4年生のとき。山梨県甲府市に暮らしていた谷口さんは、自分の環境からは想像もつかない大草原の風景や、『秘密の花園』や『赤毛のアン』とも違うたくましい開拓少女の物語に強くひかれた。その思いがつのり、大学時代には交換留学生として、カンザス州へ。大草原を初めて目にし、当時、まだ和訳されていなかった物語も含めて、ますますローラの物語にひかれていった。そして、社会人になり、「今しかできない」と仕事を辞め、ローラが旅した故郷をすべて回ることを決意したという。

 講演では、谷口さんが撮影してきた写真を紹介しながら、ローラの足跡が紹介された。現地で復元されたローラが生まれた家、大草原の小さな家、『プラム・クリークの土手で』に登場する土手に作られた横穴の家など、ローラファンには興味深い写真が次々と紹介された。ローラの両親や姉弟たち、夫になったアルマンゾと一緒の写真も紹介された。

「ローラは教師になり、家計を助け、真冬にはアルマンゾが迎えに来ていました。この写真はローラが学校で教えていた17歳の頃の姿です。物語ではローラとアルマンゾは年齢が近いように書かれていますが、実際には10歳離れていました」(谷口さん) 。2人はモダンな考えを持った夫婦だった。お互いによいと思ったことはするが、ローラは「なんでも夫の言うとおりにはしない」と宣言していたという。2人の間に生まれた娘の名前はローズ。ローラが一重の野バラが好きだったことから名づけられた。

 『パイオニア・ガール』の原書には、「注釈付きの自伝」という意味の原題がついている。「大草原の小さな家シリーズ」との大きな違いは、『パイオニア・ガール』がノンフィクションであることだ。娘のローズに「開拓時代の話を書いて欲しい」と言われたことがきっかけで誕生した。
『パイオニア・ガール』は執筆された当時、出版には至らなかった。そこで、エピソードを子ども向けの物語として再構築したところ、「大草原の小さな家シリーズ」としてアメリカで大ヒットすることになった。

 「『パイオニア・ガール』には、注釈本として新しい面もあります。一般的に注釈本は、注釈をつけられる本文が、すでによく知られていることが多いものです。ところが、『パイオニア・ガール』は、本文にも新しい発見がたくさんあるのです」(谷口さん)
 たとえば、髪の毛の色をめぐってローラと姉のメアリーがケンカをするシーンだ。物語では、ローラが叱られたあと、父さんがギュッと抱きしめてくれる。しかし、『パイオニア・ガール』には、ローラが叱られる場面しか書かれていない。父親になぐさめられるシーンを創作し、物語に盛り込むことで、場面はぐっと豊かになった。
 その他にもメアリーの目が見えなくなったことや弟が亡くなったことなど、「大草原の小さな家」にはない話が書かれ、ローラの人生をより深く知ることができる。
「しかも、これらの発見は、『パイオニア・ガール』の本文を読んだだけで気づきません。解説と注釈があるからこそ、分かることです」(谷口さん)

 谷口さんは講演の後半、ローラの肉声も披露してくれた。1953年、83歳のとき、カリフォルニアの図書館で録音された対談だ。
「ローラの物語が生まれたのは、娘のローズの存在があったからです。彼女が母親に思い出を書くことをすすめ、さらに物語にするときも手伝っていたのです」(谷口さん)
 ローズは手紙の名手でもあった。楽しいエピソードが書かれた手紙は、今も大切に保管されているという。
(文・角田奈穂子、写真・首藤幹夫)

[プロフィール]
谷口由美子(たにぐち・ゆみこ)
上智大学外国語学部英語学科卒業。アメリカに留学後、児童文学の翻訳を手がける。著書に『大草原のローラに会いに——「小さな家」をめぐる旅』(求龍堂)、訳書に『長い冬』などローラ物語5冊(岩波書店)など、120冊あまり。

大草原のローラ物語―パイオニア・ガール[解説・注釈つき]

著者:ローラ・インガルス・ワイルダー、谷口由美子
出版社:大修館書店

表紙画像

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