悩んで読むか、読んで悩むか

いざとなりゃ百鬼園先生みて気楽に 三浦しをんさん

2018年03月11日

三浦しをん 76年生まれ。作家。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞。ルポエッセー『ぐるぐる●(●はハートマーク)博物館』など。

■相談 50歳の私に合う職種探しのヒントを

 年が変わるので新しいチャレンジをしようと、年末にパートの仕事を辞めました。だけど私には、特別な資格もありませんし、パソコンもできません。自分が何をやりたいか、どこへ進んでいくべきなのかと思い悩んでいます。50歳のいま、自分に合う職種探しのヒントになるような本を教えてください。
 (埼玉県、主婦・50歳)

■今週は三浦しをんさんが回答します

 あまり真面目に考えすぎず、まずは一歩を踏みだしてみてはいかがでしょうか。まるで興味のなかった仕事でも、やってみたら思いがけず適性があった、ということも、気の合う同僚と出会えて案外楽しく働ける、ということもあるでしょう。どうしても業務内容が向いていなかったり、過酷な条件を強いてくる職場だったら、即刻やめて次を探せばいいのです(後者の場合は、労働基準監督署などに情報提供しつつ)。
 ただ、「自分がやりたいこと」や「進んでいくべき道」を、最初から仕事に求めるのは非常にむずかしいし、ご自身を苦しめる原因にもなりかねないので、そこは期待しすぎないほうがいいかもしれません。
 仕事は、「やりがい」や「自己実現」のためにあるのでも、「単なる収入手段」としてだけあるのでもない、複雑な様相を呈したものだと感じます。仕事をどうとらえ、自分の心のなかでどう折り合いをつけ、自分の体をいたわりながらどう継続していくかは、各人が実践のなかで試行錯誤するほかない。明確な「やりがい」や「自己実現」を仕事に求めても、スカッと報われることはなかなかない気がします。
 内田百けん(ひゃっけん)の「無恒債者無恒心」をおすすめします(『ちくま日本文学001 内田百けん』所収)。友人知人から借金しまくっている百鬼園先生が、借金について真剣に考察し、渋々ながら原稿を書いて稼ごうとするも筆が進まず、やっぱり金は借りるのが一番と奔走し、「借金の絶対境にひたりつつ」年越しをするという、傑作短編。本人は真面目かつ渋面なのですが、絶妙なユーモアと飄々(ひょうひょう)としたたたずまいがあって、腹の皮がよじれます。
 同時に、人間だれしも、いざとなりゃ百鬼園先生を見習えばいいんだ、と心が軽くなります(ちなみに先生は、借金奔走活動が「性に合う」そうです。世の中にはいろんな適性の持ち主がいるものです)。仕事は人生の重大事ではありません。生きているから、仕事や遊びをするのです。気楽にいきましょう。
    ◇
 次回は歌人の穂村弘さんが答えます。悩み募集は受け付けを終了しました。
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■悩み募集は受け付けを終了しました。
 三浦さんと穂村さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、荻上チキ(評論家)、斎藤環(精神科医)、壇蜜(タレント)、水無田気流(詩人)、山本一力(作家)、吉田伸子(書評家)。

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