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「手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ」 ゲームと現実、焦燥と昂揚と

 「日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと」――。昨年12月に、そう題された記事が講談社のウェブサイト「現代ビジネス」に投稿され、大きな反響を呼んだ。タイトルどおり20代の著者が書く「中国のシリコンバレー」深セン(シンセン)についてのリポートであり、そこにはめざましい成長を続ける中国への羨望(せんぼう)と、すでに輝かしい時代を通り過ぎた日本への絶望、そして、その現実を直視せず、見当違いの戦略で日本の若者を疲弊させる年長世代への抗議が率直につづられていた。内容はもちろん、読む者の胸に突き刺さる切実な文体が、とりわけ印象的だったのをおぼえている。
 『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』はそんな話題の書き手・藤田祥平の、初の自伝的小説だ。1991年生まれの少年があるネットゲームと出会い、なんの見返りもなくすべてを捧げ、いつしか伝説のネットゲーマーと呼ばれる存在になっていく。
 本作はまずゲーム小説として大変面白い。複雑なゲームの内容を巧みに抽象化し、それでいて臨場感たっぷりに読者を引き込む。同時に、数々のゲームとともに語られる体験談には、友人と運営する共有サーバーで行った悪事の告白なんてものまでふくまれていて、21世紀の初めを十代として過ごした著者ならではの時代の証言になっている。
 しかし何より本書は、直球で普遍的な青春小説だ。時に虚構を交え……というよりも虚構を通じてしか描けない真実を求めるようにつづられていく。ゲームでの達成を糧に文学を志し、恋をし、そして母の自死に直面、再びゲームの世界で、今度は宇宙艦隊を率い戦い始める。焦燥と渇望と絶望、捨て身と裏返しの不思議な昂揚(こうよう)感と全能感に満ちた日々が、ストイックでありながら熱を秘めた文体で、鋭く切り取られている。若い世代の言葉にできない思いを代弁し、そして年長世代に忘れていた情熱を思い出させてくれる一冊だろう。
 なお本書とほぼ同時に、ゲームサイト「IGN JAPAN」連載の著者のゲームエッセー『電遊奇譚(きたん)』が単行本化された(筑摩書房・1944円)。本書と相補的な関係にある一冊であり、ぜひ、一緒に読まれたい。=朝日新聞2018年4月28日掲載