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徹底検証・日本の軍歌―戦争の時代と音楽 [著]小村公次

[評者]上丸洋一(本社編集委員)

[掲載]2011年05月01日

[ジャンル]歴史 人文

表紙画像

■戦争へと駆り立てる道具を解明

 昭和初年に生まれた私の両親や親戚縁者は、酒宴たけなわとなると、軍歌をうたうのが常だった。
 ♯ここはお国を何百里
  離れてとほき満洲の……
 決まってうたうのが、この歌詞で始まる「戦友」だった。4番の
 ♯「しっかりせよ」と抱き起(おこ)し……
 の箇所にさしかかると、歌声にひときわ力がこもった。
 軍歌とは何か。「戦友」のような厭戦(えんせん)気分さえただよう歌がなぜ作られ、なぜ「軍歌」としてうたい継がれてきたのか。
 本書は、幕末・維新期の西洋音楽の移入にさかのぼって軍歌の歴史と、社会における役割を解き明かす。
 日本の音楽教育史やメディアイベントの歴史、音楽家の戦争責任など、幅広い視野の中に軍歌をおいて論じているのが特徴。音楽が人々を戦争へと駆り立てる道具として活用される時代を再び繰り返してはならない、という著者の思いが静かに底に流れる。
 私にとって特に興味深かったのは「軍歌の戦後」を描いた後半部分だ。
 ペギー葉山がうたってヒットした「南国土佐を後にして」の原曲は、戦中、中国に派遣された四国混成部隊の部隊歌だった。元の歌詞は
 ♯南国土佐を後にして
  中支へ来てから幾歳ぞ
 というものだった。
 戦後、軍歌は、1962年にアイ・ジョージが「戦友」をステージでうたったことを一つの契機に復活した。
 69年8月には東京12チャンネルで「あゝ戦友 あゝ軍歌」という番組が始まる。
 右翼団体の街宣車が軍歌を大音量で流しながら走るようになるのは、70年代以降の現象だという。
 軍歌的感性は今も生き続けている。私自身、10年ほど前、上司のリードで同僚と一緒に「月月火水木金金」を酒席でうたったことがある。あれは何だったのだろうか。
 評・上丸洋一(本社編集委員)
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 学習の友社・2520円/おむら・こうじ 48年生まれ。音楽評論家。オペラとオーケストラを中心とした音楽批評。

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