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メディアと日本人―変わりゆく日常 [著]橋元良明

[評者]

[掲載]2011年05月29日

[ジャンル]人文 新書

表紙画像

■データが覆す俗説と思い込み

 メディアはいつも論争の的である。善玉菌なのか、それとも悪玉菌なのか。ただ、ハッキリしていることは、90年代の半ばからケータイとインターネットを立役者にメディア環境が急変し、日常の生活や行動も一変したことだ。
 それでは、この変化を実証的かつ継続的にフォローした研究があるだろうか。それがあれば、メディアに関する極端な臆見(ドクサ)に修正を迫り、実態に即した根拠のある議論が展開できるはずだ。本書はまさしく、こうした課題に応える貴重な研究の成果であり、一読に値する啓蒙書(けいもうしょ)である。本書には、著者を中心とする「日本人の情報行動調査」の膨大な実証的データのエッセンスが詰まっており、そこから日本人の情報行動とその実態が浮かび上がってくるからだ。
 日本人のメディア受容の歴史をコンパクトに整理した第1章と、テレビとインターネットに対する「ネオフォビア」(新規恐怖)の諸相を、主にアメリカの研究成果を参考に整理した第3章を除くと、情報行動調査の成果が遺憾なく発揮されているのは、第2章と第4章である。
 メディアの利用形態の変化を論じた第2章で特に面白いのは、読書離れが進んでいるという俗説や「軽薄な」テレビより新聞の方が信頼性が高いといった思い込みが、客観的なデータによって覆されていることだ。さらに第4章ではネット世代の若者たちを「76世代」「86世代」「96世代」に類型化しつつ、若者たちのメディア利用行動とメンタリティの変化に迫っている。
 目から鱗(うろこ)が落ちる思いがしたのは、意外にもPCネットを利用する若者は、携帯ネットを利用する若者よりも政治的関心が高いという調査結果である。こうしたことは、本書の豊かな成果のほんの一部にすぎない。メディアの機能代替の価値を中心に様々なメディアの切磋琢磨(せっさたくま)と共存の未来を論じた終章も含めて、実に読みがいのある新書である。
 評・姜尚中(東京大学教授・政治思想史)
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 岩波新書・798円/はしもと・よしあき 55年生まれ。東京大学教授。『背理のコミュニケーション』など。

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