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鴻巣友季子 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2010年12月19日

表紙画像

 (1)ピストルズ(阿部和重著、講談社・1995円)
 (2)小さいおうち(中島京子著、文芸春秋・1660円)
 (3)流跡(朝吹真理子著、新潮社・1365円)

 (1)は、作者の神町サーガの一編。美しい4姉妹をもつ「魔術師」一家の家族史の中に、60年代に始まるフラワームーブメント、ベトナム戦争や湾岸戦争における心理兵器実験など、国内外の風俗史・社会史までが浮かびあがる壮大な趣向だ。なにか没個性で巨大でうつろなものに突き動かされた傑作。(2)は、作者の最高作。温かく、ユーモラスで、ミステリアス。昭和初期から戦後にかけての東京のサラリーマン家庭の暮らしが描かれるが、女中の手記の形をとるので油断がならない。人の視点の数だけ物語はある。作者の「本歌取り」の技はもはや玄妙の域である。(3)は、なにが起き、起きなかったのか、判然としない世界で、読むもの、読まれるもの、書くもの、書かれるものが、渾然(こんぜん)一体となる野心作。ここには日本語の流れてきた跡もあるかもしれない。今後最も注目される作家の記念すべき第一作となるだろう。(翻訳家)

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