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柄谷行人 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2010年12月19日

表紙画像

 (1)トーラーの名において——シオニズムに対するユダヤ教の抵抗の歴史(ヤコヴ・M・ラブキン著、菅野賢治訳、平凡社・5670円)
 (2)天使はなぜ堕落するのか——中世哲学の興亡(八木雄二著、春秋社・5040円)
 (3)量子の社会哲学——革命は過去を救うと猫が言う(大澤真幸著、講談社・2310円)

 今年は宗教関係の本が目立った。社会主義とナショナリズムが勢いを無くしたので、宗教がそのかわりをするようになったからだろう。たとえば、これまでシオニズムを批判したのはもっぱら左翼であったが、(1)は、ユダヤ教の立場からのシオニズム批判を扱っている。シュロモー・サンド『ユダヤ人の起源』(武田ランダムハウスジャパン)をあわせて読むと、根本的に見方が変わるはずだ。(2)は、これまで古めかしく見えた、中世の哲学を新鮮に感じさせる本である。12〜13世紀のヨーロッパ各地で自由都市が発達し、商工業者の組合組織として設立された大学で、教会や修道院に対抗して、ソフィストのような哲学者が輩出した。ギリシア哲学がなぜ中世に蘇生してきたかがわかる。(3)も、ある意味で、神学的な議論だといえる。もはや超越者が存在しえない量子力学的認識を踏まえて、これまでの知にあった神学的な構えを考察するからだ。(評論家)

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