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田中貴子 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2010年12月19日

表紙画像

 (1)漢文スタイル(斎藤希史著、羽鳥書店・2730円)
 (2)世界で最も危険な書物 グリモワールの歴史(オーウェン・デイビーズ著、宇佐和通訳、柏書房・5040円)
 (3)ナニカアル(桐野夏生著、新潮社・1785円)

 (1)は、軽妙でスタイリッシュな文体で漢文にまつわる話題を綴(つづ)るが、尖鋭(せんえい)な問題意識が包み込まれ文化論として秀逸。日本人に影響を与えた漢文という従来の視点を超えて、広く漢文文化圏を遊弋(ゆうよく)し、そのなかの日本を逆照射することにも成功している。とくに、複数のテクストを「受容・影響」からではなく読む試みは知的好奇心をそそる。(2)は、「魔術書」の歴史という際物めいたテーマを、豊富な資料の裏付けによって論じきった骨太の労作である。謎に惹(ひ)かれ、欲望に動かされる人間の業というものが、魔術書・グリモワールの歴史と重なりあって見えてくる過程にはぞくぞくする。紙の本というモノ自体が持つ魔力や権威を論じた点も興味深い。(3)は、林芙美子の戦時下を虚実のあわいから描く。舞台となった南国の倦(う)んだ空気が首筋を撫(な)でるような生理的感覚と、精査された史実とが織りなす不安定さが魅力のキリノワールド!(甲南大学教授)

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