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高村薫 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2010年12月19日

表紙画像

 (1)自動車と移動の社会学(J・アーリほか編著、近森高明訳、法政大学出版局・6195円)
 (2)数の魔力(ルドルフ・タシュナー著、鈴木直訳、岩波書店・2940円)
 (3)進化論はなぜ哲学の問題になるのか(松本俊吉編著、勁草書房・3360円)

 もう若くはないと脳が自認するとき、若返りのために脳自身が「驚きたい!」と叫ぶのかもしれない。かくして今年の読書の多くは、無意識のうちに発見と驚きを求めるものになっていた。
 (1)は、二十世紀を生きた者なら誰でも身体感覚としてもっている感覚を初めて言葉にしてもらった驚き。まさに自動車と一つになった身体こそが世界の見え方を変え、社会のシステムを変化させてきたのだと実感する。
 (2)の白眉(はくび)は、周波数比でつくられる音律の怪。数比を操ってゆきつく無限小数の世界と、それがつくる無限の音格子に驚嘆し、さらにそれを近似値で十二鍵盤に還元する発想に「あ!」と声が出た。魔術のごときは、実に人間の頭脳である。
 (3)は、評者が何度も敗退してきた分野で初めて「なるほど」と思うに至った本。理解できなかったことが少し理解できたとき、自分が理解したということそのことが新鮮な驚きになる。(作家)

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