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酒井順子 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2010年12月19日

表紙画像

 (1)読み解き「般若心経」(伊藤比呂美著、朝日新聞出版・1680円)
 (2)おだやかな死(シモーヌ・ド・ボーヴォワール著、杉捷夫訳、紀伊国屋書店・1630円)
 (3)だから、ひとりだけって言ったのに(クレール・カスティヨン著、河村真紀子訳、早川書房・1890円)

 母親という存在について考えることの多い一年でした。(1)は、般若心経、観音経などのお経を、著者が個人的な事情に照らし合わせつつ、その意味を解いていった一冊。親の介護や死、孤独といった身近な問題に、お経はやわらかく添ってゆくことを教えてくれます。(2)は復刊本。癌(がん)で入院した母親を見守るボーヴォワールは、母親がいた日々のことを思い起こしていきます。病によって変わっていく母を見ながら娘は、自分が抱く母に対する感情をも見つめ直し、やがてその死を全身で受けとめるのです。
 母と娘の関係の、複雑さを短篇(たんぺん)で示したのが、(3)。一つ一つの物語は、母娘間の暗い種子を顕在化させますが、読後に残るのは、愛という土壌なのでした。
 本は、個人的な体験と深くつながります。そして読むことは、体験を普遍化させる力を持つ。そんなことを感じさせる三冊となりました。
 (エッセイスト)

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