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河原久雄 文楽写真集 [写真]河原久雄、[構成]橋本治

[評者]酒井順子(エッセイスト)

[掲載]2009年08月09日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■あふれでる人形の感情、精巧な美

 表紙には、故・吉田玉男が人形を遣う写真。そして、「河原久雄文楽写真集」「構成 橋本治」の文字。思わず手に取った私は、本を広げて意外な感じがしました。写真に対する橋本さんの解説が、一切無いのです。
 ページをめくると、しかし解説をつけないということが、それぞれの写真への橋本さんの敬意であり称賛の意であるということが、わかってきます。
 「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の政岡の横顔の、静謐(せいひつ)な真剣さ。「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」の団七の、ほとばしる殺意。写真からはそんな人形たちの感情があふれているのであり、橋本さんはあえて解説しないことによって、人形たちに声高に語らせているのです。
 夢中でマンガを読む時、登場人物の声が聞こえ、動きも見える気がすることがありますが、そのような感覚に陥るこの写真集。人形が木偶(でく)であるからこそ、私たちの感情はその中に入り込みやすいのかもしれません。本来は動かない人形が人の手によって動かされ、それを写真を撮られることによってもう一度静止するという構造により、極めて巧緻(こうち)な美が、ここに生まれているのです。
 酒井順子(エッセイスト)
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 日本経済新聞出版社・3675円

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