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封印―警官汚職 [著]津島稜 

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2010年10月24日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■緊張感みなぎる組織と組織の対立

 先般、郵便不正事件の無罪判決を発端に、大阪地検特捜部の失態と不祥事が、相次いで明らかになった。その真っただ中に、本書が刊行されたのは、単なる偶然だろうか。
 本書は、28年前に世上をにぎわした、大阪府警による賭博ゲーム機汚職事件を、さまざまな視点から再構築する。著者は、当時この事件にかかわった大阪地検担当の新聞記者である。自己の体験をもとに、ドキュメンタリーノベル形式で、話を進めていく。実在する社名や人名を変え、ときに想像や創作部分を加えながらも、基本的には事実に即した展開になっている。
 新日本新聞大阪社会部の司法記者、津原慎一郎は1982年2月のある深夜、田中と名乗る正体不明の男から、密告電話を受ける。大阪府警の警官が、賭博ゲーム機にからんで業者に手入れ情報を流し、謝礼をもらうなど汚職に手を染めている、というのだ。津原は、田中が挙げた汚職警官の名前、業者名など、複数の固有名詞が実在することを、みずから確かめる。
 ガセネタではないと直感した津原は、その情報を大阪地検の戸井特捜部長に告げ、極秘捜査に協力することになる。捜査が進展するにしたがって、津原やその周辺に、不穏な空気が流れだす。やがて、彼らの水面下の動きが、ライバル紙を通じて府警の幹部に漏れ、地検との間にせめぎ合いが始まる。さらに、新聞各社の特ダネ合戦にも、発展する。各紙の記者の、駆け引きと腹の探り合い、ふだんは協力関係にある、検察と警察の確執など、組織と組織の対立が緊張感豊かに、描き出される。
 結局、汚職警官と業者が逮捕されて、事件は一応の決着をみる。しかし、評者は事件そのものよりも、記者と検事の親密極まりない、ある意味では癒着ともいえる関係に、興味を引かれた。本書が、あえて『封印』と題されたのも、そのあたりの事情による、と思われる。こうした密接な関係は、多かれ少なかれ現在もなお続いている、とみてよかろう。
 そうしたことも含めて、何かと考えさせられる問題作だ。
 評・逢坂剛(作家)
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 角川書店・1995円/つしま・りょう 47年生まれ。元産経新聞社会部記者。現在、編集・企画業。

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