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写真のこころ [著]平木収 

[評者]石川直樹(写真家・作家)

[掲載]2010年10月24日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■写真との出会い求める人に

 まだ10代だった大学時代に、ぼくは平木収さんの写真史の授業を受けていた。旅に明け暮れていた学生時代にあって、まともに出席した数少ない授業の一つである。暗くなった教室でスクリーンに投影される数々の写真作品を見つめながら、平木さんのもぞもぞとした語り口に一心に耳を傾けた。「写真史」や「写真論」などといったカリキュラムはどこの大学にもあるものではなく、まだ写真を撮り始めて間もない頃に、そうした授業によって、カメラという機械を使って世界に直(じか)に触れていく写真家という在り方を知ることができたのは非常に幸運だった。あのとき平木さんと出会っていなかったら、今まで10年以上も自分が写真を撮り続けることなどできなかっただろう。
 本書は、昨年59歳で他界した彼の最初で最後の単著である。「アサヒカメラ」や「日本カメラ」をはじめとする写真雑誌や写真集などに掲載された文章・対談を選(え)りすぐって編集したもので、30年間におよぶ彼の評論活動を凝縮した構成になっている。比較的短めのテキストの集積でありながら、彼の人生と写真史が呼応しながら進み、1970年代後半から世紀末にいたる写真界の一断面を明確に浮かび上がらせる。
 濱谷浩らを取り上げた熱のこもった作家論は、私論と銘打ちながらも、作家自身の仕事ばかりでなく戦後の日本社会における写真家の役割を問い直すものになっている。自身も自主ギャラリーの運営に携わり、学芸員として美術館に勤務した経験を持つ平木さんは、写真を志す者に対して常に門戸を開き、決して突き放さなかった。小さなギャラリーや地方の写真イベントにも足繁(しげ)く通い、持ち前の優しさでようやく地面に顔を出したばかりの新芽を掬(すく)い上げてきた彼の志向は、先鋭的な美術評論というよりはむしろ、写真を撮る人と見る人とのあいだに立ってそこに発展的な関係を築くことに重きが置かれていたように思う。写真との新しい出会いを求める人々に本書をお薦めしたい。
 評・石川直樹(写真家・作家)
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 平凡社・2310円/ひらき・おさむ 49年生まれ。写真評論家、写真史研究家。09年に死去。

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