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日高敏隆の口説き文句 [編]小長谷有紀・山極寿一

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2010年10月03日

[ジャンル]人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■仕事、人柄 29人が思い出語る

 画家がいる。作家がいる。そしてジャズマン、記録映画作家、国文学者、異分野の学者、僧侶……。昨秋、急死した動物行動学者、日高さん。その思い出や教えを振り返る29人の肩書の広がりが、彼の仕事の意味と人柄を何よりも雄弁に示す。
 理系の学問は、えてして部外者には難解なものだが、彼には意識する壁などなかった。人と会うのをいとわず、美点を見つければ誉(ほ)め、自然の不思議を語り、理解者を増やしていく。
 人柄の魅力だけなら、また人は離れる。人類を生き物の頂点とみる西欧的な考えをとらず、人と動物に上下はないという世界観。現場を大切にする真摯(しんし)さ。「新奇さ」や「役に立つ」ことを常に要求する昨今の学界の中で「自分が本当に大事だと思ったら繰り返しなさい。そうしないと人には伝わらないよ」と説く。博物学は「思想」であって「技術」ではないなどとする学問的骨太さが、人々の心を捕らえ続けた、と知る。
 若き日、日高訳の『ソロモンの指環(ゆびわ)』を読んだ。以来、動物行動学の本を読み継いできたのも口説かれた結果だったのか。と、この文を書きながら思う。
 四ノ原恒憲(本社編集委員)
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 岩波書店・2100円

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