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ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 [著]大鐘良一・小原健右

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2010年07月18日

[ジャンル]科学・生物 ノンフィクション・評伝 新書

表紙画像


 ■必要な資質とは?意外な逆転も

 遊園地のジェットコースターでも怖いんだから、子どものころから宇宙旅行にはあこがれたものの、宇宙飛行士なぞ望むべくもない。だからこそ、どんな人が宇宙飛行士を目指し、どういう試験を経て合格するのかには興味があった。
 本書はその興味に十分応えてくれる。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が初めてNHKテレビのカメラに公開した、2008年6月からの宇宙飛行士試験の模様を、取材記者たちが描く。
 10年ぶりの募集とあって、待ちに待った応募者総数は、963人と過去最高。当然、関門は狭い。宇宙飛行士は、多国籍の人々と危険に満ちた閉鎖空間で長く暮らす。必要な資質とは何か。「ストレスに耐える力」「リーダーシップとリーダーを支援し、時に直言もできるフォロワーシップ」「チームを盛り上げるユーモア」「危機を乗り越える折れない心」だという。
 この基準で実施される面接などの幾多の試験は、誠に厳しい。残った“最終候補者”は、パイロット、研究者、医者など10人。宇宙ステーションを模した80平方メートルほどの狭い閉鎖施設で、1週間同居し、24時間監視のもと次々に出される課題をこなす閉鎖環境試験が、本書のハイライトとなる。
 「会社設立趣意書を作れ」「心を癒やすロボットを作れ」「折り紙を折り続けろ」……。意地悪な“罠(わな)”も仕掛けられている。お互いの微妙な心理のやりとり、極度の緊張。ゼッケンのつけ間違いなど、考えられないミスもでてくる。
 結局、パイロットの2人が合格。確かに、優れた人たちだ。でも、最後にちょっとした逆転がある。まったく地味な存在だった医師が、第1次補欠に選ばれ、のちに飛行士に昇格する。なぜか。向井千秋さんの言葉が印象に残る。「宇宙飛行士はスーパーマンである必要はない」が、「すべての項目で60点(合格点)を取るというのは意外と難しいんですよ」と。
 一読、人間の底力もまだまだ捨てたものでもない、なんて思わせる力がある。夢などどこかに置き忘れた者にさえね。
 評・四ノ原恒憲(本社編集委員)
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 光文社新書・840円/おおがね・りょういち、おばら・けんすけ ともにNHK報道局員。

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