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五・七・五交遊録 [著]和田誠

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2011年07月03日

[ジャンル]文芸 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■人物寸評、俳句と似顔絵通じ合う

 本書の題名「五・七・五」を「575」と読むんだから僕はよほど俳句に疎いといえよう。50年のつき合いの和田誠に俳句の趣味があったなんて全く知らなかった(これは本当)。と言うと「贈本した俺の本読んでない」と言われるにきまっているが、興味のないものは見えない聞こえない。
 さて本書は句会仲間を中心に僕みたいな人間も交遊仲間に加えて、その人物に句をプレゼントして、人物寸評を記した交遊録である。その昔、和田家は親戚で句会をやるほどで、彼も6歳で処女句を詠んでいるというからすでに子供文化人だ。
 骨董(こっとう)と俳句の良し悪(あ)しがわからない僕は「ヘェー」と言うしかないが、彼が俳句に惹(ひ)かれるのは、彼の似顔絵を見れば納得できる。最小限の点と線だけで対象の人物の特徴をつかむ技能は俳句と似ている。似顔絵の点と線は1ミリでも狂うと別人になってしまうので、その正確さは精密機械並みだ。この感覚で彼は人物の性格や仕事の内容まで的確に文章で描く。
 このような技術は彼の記憶力に由来しており、昔読んだ詩や俳句を諳(そら)んじることができるだけではなく過去に観(み)た膨大な映画のひとつひとつのセリフまで正確に記憶している。目や耳と脳と感性が一体化しているからだろう。つまり現実体験の再現能力は記憶から来ており、頭の中のビジョンや音の再現が、彼の絵や作曲にもつながっている。
 それにしても彼の交遊は多士済々だ。そんな人々のポートレートを片っ端から俳句で描写するだけでなく、映画の場面まで俳句で活写してみせる。世界一短い映画批評だ。
 和田誠は天動説のような人で、天の星が勝手に動いているように、本人はジッとしているだけで、色んな人が集まってくる。それをつまみ食いしていればいいのだ。ここで一句と言いたいところだが……、残念。
     ◇
白水社・2415円/わだ・まこと 36年生まれ。イラストレーター。映画も監督。『和田誠の仕事』など。



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