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地図から消えた島々 幻の日本領と南洋探検家たち [著]長谷川亮一

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2011年07月03日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■謎また謎、“山師”たちの夢の跡

 日本近海は「まぼろしの島」の宝庫といえる。もし無人島を発見し標柱を証拠に建てた場合、「無主地先占」の定めにより領有できるため、島が多い太平洋は先陣争いの舞台となった。本書は帰属問題に揺れる日本周辺の島々をも絡めながら、真にまぼろしとなって地図から消えた島々、実在するが奇怪な騒動に巻き込まれた島々の秘史を語る。
 たとえば小笠原諸島だが、江戸期にこの開拓を願い出た「小笠原貞頼の子孫」を幕府が「証拠も権利もない」と門前払いにした。ところが幕末に西洋人が住み着き、ペリーが島に米国旗を掲げると、虚偽と決めつけたはずの小笠原家文書を掘り返して急遽(きゅうきょ)「小笠原島」領有の証拠にした。かと思えば、太平洋戦争の重要地点となったミッドウェー環礁は、19世紀末にアホウドリ猟の日本人が住み着いたにもかかわらず、アメリカ政府が日本に「この島の領有権を主張する気があるのか」と打診した際、なんと「その気なし」と返事したのだ。島の領有をめぐる物語はまさにミステリーの連続である。
 実在を確認できないが地図にはある島を「疑存島」と称し、典型例として本書に詳述されるのが、「中ノ鳥島」である。そもそもの発端は、地球内部に大空洞があり南北両極に通路があるという奇説「地球空洞説」である。その関わりから出たガンジス島なる正体不明の島を、明治期に某日本人が「発見」し開拓申請した(この某日本人もじつに興味深い人物だ)。政府は「中ノ鳥島」と名づけ領有を宣言、島のリン鉱は5億円だという噂話(うわさばなし)が流れ山師や冒険家を吸引したが、結局「不存在」として削除された。ところが今でも法令の1カ所に消し忘れで島名が生きているそうだ。これら南進の痕跡を本書は「“山師”たちの夢のあと」と呼ぶが、太平洋の船旅を十倍おもしろくしてくれる一冊だ。
     ◇
吉川弘文館・1890円/はせがわ・りょういち 77年生まれ。著書に『「皇国史観」という問題』。



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