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気候工学入門―新たな温暖化対策ジオエンジニアリング [著]杉山昌広

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2011年07月10日

[ジャンル]科学・生物 社会

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■現実味増す「気温下げる」技術

 現在なお大問題の原子力が推進されるにあたり、地球温暖化の緩和という名目も大きかったのはご存じのとおり。目下はさほど話題にならないものの、今後温暖化が一部の地域に何らかのコストをもたらすのも確実だし、その対策は必須だろう。
 これまでまじめに検討されていたのは、莫大(ばくだい)な費用で効果はほとんどなく、実現はおろか国際的な合意すら絶望的な炭素排出削減、温暖化の影響に個別に対応する適応策、再生可能エネルギーの研究といったところだ。でも、気温上昇が問題なら、それを直接下げたらどうだろう?
 たとえば、空中に光る微粒子をまいて、太陽光を反射させ地球に入る熱を減らしたら? プランクトンを増やして大気中から二酸化炭素を除去したら?
 これまで、こうしたジオエンジニアリングと呼ばれる技術はまともに考慮もされなかった。でもそれが徐々に現実味を増し、いまや真剣な検討の俎上(そじょう)にのりはじめている。本書はそうした各種の技術を紹介しつつ、その費用や社会的な枠組みまで簡潔にまとめ、素人でも十分に読める入門書なのにかなり包括的だ。
 個人的には微粒子散布や雲の増加が意外とお安いのにびっくり。とはいえ、その運用は悩むところ。いまの日本では、巨大技術とその運用に対する不信は大きい。本書はそうした懸念や批判論も手際よく紹介している。
 だが、もし温暖化が本当に重要な問題であるなら、使える手段は何であれ検討くらいはしておきたい。本書は、決してジオエンジニアリング万歳の本ではない。だが今後、こうした技術の重要性は確実に増す。温暖化問題に関心のある方はご一読を。有効性の疑わしい炭素排出削減に飛びつくより、社会としていろいろな選択肢を踏まえたうえでの合理的な選択がしやすくなるはずなのだから。
 評・山形浩生(評論家)
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 日刊工業新聞社・2310円/すぎやま・まさひろ 78年生まれ。電力中央研究所社会経済研究所主任研究員。



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