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別れの時まで [著]蓮見圭一 

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2011年07月17日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■中年男女の恋愛ものが急展開

 編集者の松永は、〈家族〉をテーマにした手記の入選者の一人、毛利伊都子と会って心を引かれる。
 伊都子は、松永より四つ年下の35歳で、劇団の女優だ。伊都子には9歳の息子がいるが、夫については手記にただ「息子は父親を早くになくし」と書かれているだけで、素性が分からない。松永自身も妻を早く亡くし、中学1年の娘早紀と2人で、暮らしている。家が近いことから、松永と伊都子は子供ぐるみで、付き合いを始める。当初は、手記に夫のことを書き足すよう頼むのが目的だったが、それなら入選を辞退すると伊都子に言われ、松永は当惑する。中ぶらりんのまま、2人の交際は続く。
 やがて、公安の刑事が松永に接触を求め、物語はがぜん緊張感を帯びてくる。刑事たちは、伊都子のことを根掘り葉掘り聞き出そうとする。あいまいにされていた伊都子の過去や息子の父親の消息が、少しずつ明らかにされる。さらに、30年以上前の過激派による企業爆破事件の謎が浮かび上がってくる。息子の父親は生きており、過激派の一味として追われているらしい。
 こうして、子持ちの中年男女の恋愛もの、と思われた小説が急展開して、サスペンス小説の様相を呈し始める。刑事から、伊都子の動静を探るように頼まれると、松永は真実を知りたさのあまり、断りきれない。その点松永は、いわゆる〈男の生きざま〉小説の主人公とは一味違う、人間的弱さを持つ。結局、そうした松永の優柔不断さが、この小説を安易なハッピーエンドに終わらせない予兆的な伏線になっている。
 文章は読みやすく、しみじみとした味わいを持つ。独特の情感は、先年物故した藤原伊織の世界を彷彿(ほうふつ)とさせるものがある。好感の持てる小説だが、タイトルと帯の惹句(じゃっく)のせいで、結末がストレートに予想されてしまうのは、いささか惜しい気がする。
 評・逢坂剛(作家)
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 小学館・1575円/はすみ・けいいち 59年生まれ。作家。『水曜の朝、午前三時』『ラジオ・エチオピア』など。



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