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地球の論点―現実的な環境主義者のマニフェスト [著]スチュアート・ブランド

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2011年07月24日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像


■原発推進へと「転向」した理由

 七〇年代米西海岸文化を支えた「全地球カタログ」。大企業と政府による消費と管理の枠組みに対抗し、個人の創意と自由に基づくエコライフスタイルを提案した雑誌だ。同誌の標語「ずっと無謀で」はアップル社のジョブズの座右の銘にもなった。
 その伝説的な編集発行人が本書の著者スチュアート・ブランドだ。その後も電子コミュニティー初期の論客としてネット社会の議論形成に貢献した。いまの環境保護論者の多くは彼の影響下にある。
 本書はそのブランドが地球温暖化を懸念し、対策を提案した本だ。その答えは、都市化促進、気候工学、遺伝子工学、そして……原子力推進だ。
 ファンたちは仰天した。いずれもかつてのブランドが全否定した技術ばかり。だが本書は「転向」の根拠を反駁(はんばく)しがたい詳細さで説明する。
 さらに統計学者ロンボルグが地球温暖化否定論者として(誤って)批判されるが、実は彼の支持する温暖化対策はブランドとまったく同じ。立場に依(よ)らない結論の一貫性は、利権や党派的な歪(ひず)みの不在を図らずも示している。
 温暖化にもっと気長な取り組みを主張する声もある。その場合も本書の技術は、他の面で人類の将来に大きな意味を持つ。今の日本では、多くの読者は本書に反発するだろう。目下の原発事故で著者の見解も変わるかもしれない。だが脱原発を訴える人こそ本書を読んでほしい。本書でも指摘の通り、原発といっても様々だ。重要なのは長期的な可能性を理解した上での選択なのだから。
 「全地球」を看板に個人の自由とミクロな技術の意義を訴えてきたブランドが、本当の全地球問題で巨大システムと大規模科学に救いを求めるとは皮肉。だが結論に同意せずとも、その選択を直視した著者の誠実さは尊重すべきだろう。また敢(あ)えてこの時期に本書を出した版元の蛮勇にも脱帽。
    ◇
 仙名紀訳、英治出版・2310円/Stewart Brand 38年生まれ。編集者、未来学者。『メディアラボ』など。



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