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原発報道とメディア [著]武田徹

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2011年07月24日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像


■相互不信溶かす「新しい地図」は

 世間では原発推進派VS.反対派という対立が続いている。著者は、相互不信を強化する両者の対立構造とメディアのあり方に鋭くメスを入れる。
 福島第一原発の事故は、外部電源の喪失に大きな原因があった。しかし、既に海外では重力による冷却水注入や自然廃熱による冷却システムなど、電源喪失を前提とした技術が開発されていた。にもかかわらず、なぜ日本では導入されなかったのか。
 推進派は「絶対安全」を繰り返してきた手前、「より安全な原発」がありえることを認めると、稼働中の原発に不足があると認めることになる。教条的な反原発論者は、安全神話の綻(ほころ)びを突き、より安全性の高い技術の存在を容認しない。結果、古い原発は古い技術のまま稼働し、リスクが拡大する。この相互不信に基づく膠着(こうちゃく)状態が、今回の事故につながったのではないかと著者は指摘する。
 推進派は、なぜ絶対安全というプロパガンダを取り下げられなかったのか。反対派はなぜリスクの総量を減らす方向に踏み込めなかったのか。
 ここで重要なのがメディアの役割だ。著者曰(いわ)く、ジャーナリズムは本来、相互不信を溶解し、価値観の調停を進めながら最適解を追求すべきである。しかし、現在のジャーナリズムは二分法構造に回収され、リスクの拡大に加担している。この負のループを解消することは可能なのか。
 そこで注目されるのが、ネットメディアの存在である。今回の震災ではツイッターをはじめとするソーシャルメディアが一定の役割を果たした。しかし、著者は安易なツイッター礼賛に警告を発する。ネット上のコミュニティーは、どうしても価値観を共有する集団になりがちで、推進VS.反対という二分法的膠着状態はますます加速する。
 私たちはメディアの「新しい地図」を手に入れることができるのか。原発報道が露(あらわ)にした課題は大きい。
    ◇
 講談社現代新書・798円/たけだ・とおる 58年生まれ。ジャーナリスト。『戦争報道』『NHK問題』ほか。



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