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調査報道がジャーナリズムを変える [編]田島泰彦・山本博・原寿雄

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年07月24日

[ジャンル]社会

表紙画像


■力ある報道は手作りの仕事から

 新聞、テレビ、ネット……日々、情報とニュースはあふれているが、歯応えある報道と接することは案外と少ない。本格的な調査報道もまた少なくなった。本書は、調査報道を担ってきた記者やメディア研究者たちによる、ジャーナリズムへの熱い思いと論考をまとめたものである。
 紹介されている調査報道は「桶川ストーカー事件」「足利事件」「核の持ち込み密約」「リクルート事件」「北海道警の裏金づくり」「検察と国策捜査」など。加えて、海外でのネット時代の調査報道も紹介されている。
 調査報道に共通するのは、振り返っていえば総理の首を取るような大事件に発展した報道も含め、発端は記者個人の“小さな引っかかり”にあることだ。
 足利事件の冤罪(えんざい)報道は、それまでの捜査に疑念をぬぐい切れない記者が遺族に手紙を書いたことからはじまっている。リクルート事件は、贈賄罪の時効という壁を突破しようとしたデスクの個人プレーがあった。いずれも記者クラブでの“官製報道”からは生まれないものだった。
 調査報道はアメリカの新聞メディアが切り開いた歴史があるが、時間とカネを食う。新聞産業が不況に陥っている現在、小さなローカル紙では担うことがむつかしくなっているという。一方、調査報道へのNPOや基金がつくられ、ネット初のピュリツァー賞も生まれている。
 ネット社会が進行し、報道と情報暴露の境界線も判然としなくなってきた。メディアは過渡期にあって明日の姿は定かに見えない。ではあるが、どこまで行っても、力ある報道は記者個人の手作りの仕事からはじまることは動かない。調査報道を担ってきた記者たちの来歴が、全国紙やテレビ局に所属する以前、地方紙や写真週刊誌にあったことは示唆的である。志ありてジャーナリズムあり——。そんな古風な言葉がよぎる。
     ◇
 花伝社・1785円/たじま・やすひこ 上智大教授、やまもと・ひろし 元朝日記者、はら・としお 元共同通信編集主幹。



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